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黒犬倉庫

版権・オリジナル・ CP 小説中心。よろずジャンルなブログ(倉庫)。二次創作や、オリジナルキャラクターが主軸となる作品が多め。受け付けない方は閲覧はご自重下さい。原作者・出版社等の関係はありません。

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5万企画 1 蒼紅編


※5万企画第1弾



<蒼紅編>

IF~アオイがゴドリック本人だったら~





――良かったのかな?
――引っ張ってきたんだろう

――干渉しておこう
――悪戯は拒否しておくぞ

――ありがとう
――ではな



とてもとても、深い夢を見る。
あまりにも遠すぎる過去は、まるで幻のような儚さを持つ。
それでも、昨日のことのように鮮明な輝きを持っている。

何が正しくて、何を間違えていたのかと、問答は途方もない。

きっと、全てに答えがあるわけじゃない。
1人1人に確固たる信念と理想があり、揺らぎもしなかった。
だからこそ幾度となく話し合いを重ねてみても、全てがひとつの
未来にはならず、最後まで別々の道であっただけのこと。

それだけのこと。
それだけのことが、とても惜しくて。

だから僕は、あの時の言葉に甘えてしまったんだ。





密やかな宵闇の下、鬱蒼とした木々の間をゆったりと歩く。

遠く背後にある館は、今はまだ静かだろう。
しかし――、厳重に保管していたはずの魔道書と杖がいつのまにか
なくなったことに気がついたなら、とても騒がしくなるはずだ。

木々を抜けて切り立った岩壁に突き当たると、左に逸れた所にある
小さな洞窟へ足を踏み入れる。
光で照らしもせず、迷いなく奥へと進んでいく。

しばらく歩いていると、急に広く明るい空洞に出た。

頭上の岩に大きな割れ目が出来ていて、そこから月が覗いている。
岩場が月光により照らされて煌き、空洞全体が淡い青の光に
満ちているようだ。

そこでようやく、ポケットの中から杖を取り出した。
懐旧に染まる瞳で杖を眺めたあと、軽く振る。



――目の前に白い影が現れた。



向こう側が見えるほど色素が薄く、霞のような白い影。
細く背高い身体、整うも白い肌、腰まで届く漆黒の長髪。
微かに睫毛が動き、固く閉ざされていた瞼がさらりと開く。
奥に秘められていたのは、深紅の双眸。

暗い冷たさは見えない。
静かな悲しみに見えた。

無表情で揺らめく男に、首を傾げる。

「まるでゴーストだ」

ようやく目の前の人物を認識したのか、男は一度だけ瞬いた。
首を横に振り、遠くで囁くような、妙に透き通る声で言う。

『いや、我はゴーストなどではない。今、汝が手にしている我の杖に
 封じた“記憶”――』

もう一度、男は瞬く。

振られた杖からは、何の繋がりも感じられなかったからだ。
繋がりを感じないどころか、己の杖ではなかった。

『……我が真と認める後継者が現れた時、閉じられた記憶の封印は
 解かれ、我がこの姿を現せるようになっている――のだが』
「あ、君の杖こっち。この杖は僕の」

ひょいと掲げる、反対側の手で持っていた魔道書と杖。
示された杖に目を向けた男は、それが己の杖であることを知る。

後継者となる者が杖を使い、魔力が宿って初めて封印は解かれる。
一度も杖を使わず、魔力も宿さず、魔道書を開くこともせずに、
封印が解かれることなどありはしない。
あるとすれば己の意思か、あるいは――封印そのものを消した場合。
しかしそれほどのことが出来るのは、封印の構造を細部まで知る者か、
己と魔術の腕が同等、もしくは上回る者のみ。

男は瞬き、眉をひそめた。

揺れる深紅の瞳を、目の前の人物に落とす。
全体しか見ていなかった瞳が、徐々に焦点を合わせていく。
やがて男は気がついた。
己を見上げてくる、深紅と瑠璃のオッドアイに。

瑠璃――空と海を思わせる深い青。

かつてその瞳を持っていたのは、ある一人の男。
陽のような赤をまとい、金の髪をなびかせ、剣を携えた魔法使い。
見上げてくる瞳は――表情は――立ち姿は――。

愕然と立ち尽くす男を眺めながら、くすりと笑う。

「おーい、何を固まってるのかな。せっかく持ってきてあげたのに。
 むしろこの世界までやって来たのに。再会の挨拶はないのかい?」
『……お前は……まさか――!』
「そのまさかだよ、久しぶり。でも積もる話は後にして、帰ろうか」
『ま、待て、どこに――』
「どこって。決まってるだろう?」

瑠璃の瞳を喜色に染め、晴れ晴れとした笑顔を浮かべ。
男を見上げながら、楽しげに首を傾げて。
最初に勧誘した時と同じように、手を差し伸べて。

『ゴドリック――』
「帰ろう、サラザール」

懐旧と罪悪に深紅が揺れるのを、気にも止めず。
ゴドリックはサラザールの手を引いた。





「僕たちの、ホグワーツへ」





END.

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