蒼がぶつかったもの
ゆっくりと目を開ける。
ソファに誰かが、ゆったりと座っているのが見えた。
何回か瞬きして視界をはっきりさせていると、そいつは俺が
ようやく起きたことに気がついて、緩く振り返った。
「休暇とはいえ、お前は寝すぎだぞ」
――サラザール。
あれ? 何かすっごく大事な夢を見てた気がする。
……駄目だ、覚えてないや。
思い出そうとしても何だか霞んだようになってる頭に、ぼーっとして
考えてる俺に向かって、サラザールの腕から丸く白いものが
俺の方に飛んできた。
「ホー」
「……って、何でここにヘドウィグが? ……あー! そっか、
クリスマスプレゼント持ってきてくれたんだな!」
甘えてくるヘドウィグの頭を撫でてからベットの周りを見てみると、
いくつかクリスマスプレゼントが置いてあった。
(……うわー、嬉しいな。まさかこっちにきてからこういうプレゼントを
もらえるなんて全然思ってなかった……)
1枚1枚カードを丁寧に読んで、誰が送ってくれたのかを確認して、
子供みたいにわくわくしながらプレゼントを開けてみる。
ハリーからはスニッチ型のクッション。
もし手作りだったらある意味すごいぞハリー!!
ロンから魔法界のチェス。
あ、そういえば結構前に持ってないって言ったっけ、俺。
ハーマイオニーから魔道錬金術の本。
読んでみたかったんだけど、図書館になかったんだよなー!
ホクトから動物型のクッキー。
ホクトってお菓子作るの好きって言ってたし、コレは手作り?
レーチェから少し高度な魔道書。
絶版になったやつだな、サラザールに教えてもらおっと。
ハグリッドから甘そうで硬そうな糖蜜ヌガー。
歯には丈夫そうだけど……さて、どうやって食べるかな。
「寒い中、こんなにプレゼント届けてくれてありがとな、ヘドウィグ。
ハリーとはちゃんと仲直りできたか?」
「ホー!」
「ん、良かった良かった」
俺がそう聞くとヘドウィグは嬉しそうに一声鳴いて、窓からふくろう小屋に
飛んでった。
その姿が雪にまみれて消えるまで見送り、俺は着替え始める。
暖炉前のソファでプレゼントでもらった魔道書を読み始めようとしていた
サラザールが俺を見て首を傾げた。
「出かけるのか、アオイ?」
「ん、校長と話す約束してんだ。サラザールはどうする?」
別にそサラザールにとっては、大事な話じゃない。
いそいそとローブを着こみながら俺が訊くと、しばらく間をおいてから、
サラザールは首を振った。
「……いや……この魔道書が気になるからな。遠慮しておく」
「オッケー。んじゃ、行ってくる」
「ああ」
その言葉を受け取ると、マフラーを巻いて部屋を後にした。
校内だろうとなんだろうと俺は寒いのが苦手だ。
むしろ、イギリスは寒すぎだろう。
サラザールの座ってた暖炉の前、本当は俺の特等席だったんだ。
まあ、最低1ヶ月に1回くらいは校長と話すって、前々から決まってたし、
仕方ないか。
……決まってたというか校長が “近況報告は面と向かっての☆” とか、
俺に言ってきたからだけど……。
今更だけどお茶目そうに見えて絶対無敵だよな、校長って……。
近況報告=お茶会? っぽいことを終えて、すぐ部屋に帰って暖炉と
飲み物で暖まろうと思って俺は廊下を走る。
どん!!
「むぐぼっ!?」
角を曲がったとたん。
何かでかい壁とぶつかって、俺は変な悲鳴を上げる。
うう……俺って何か最近、変な声出しすぎな気がするんだが。
きっと呪文集ならぬ、変声集でも作れるんじゃないか?
……そんなの嫌すぎる……。
ぶつけた鼻をおさえて壁を見上げてみると、それは生徒だった。
……生徒っつーか……これまた何つー運の悪いことにスリザリン生で、
しかもマルフォイ御一行だし!!
少しだけマシかと思ったのは、ぶつかったのがクラッブって所か。
「おっと、ごめんごめん。大丈夫だったか?」
冷静を装いながら俺は笑って謝る。
もちろんこの体の大きさなら、大丈夫に決まってるだろうけど。
「……っ別に」
「君は――レイブンクローのタカハシだったか? 編入してきた」
クラッブがそっぽを向いて言うと、その向こう側からマルフォイが
ひょっこりと顔を出した。
(……うっわあ……、どーしよーかなー。マルフォイとは極力、
関わらないつもりだったんだけど……)
このまま去っても良く思われないだけだろうし、と俺は考える。
とはいえ仲良くするつもりもないから――仕方ない。
さっさとやり過ごすしかないか……。
俺はきょとんとした顔を作り、首を傾げる。
「えっと……そうだけど、どちら様?」
「ああ。僕はスリザリンの2年、ドラコ・マルフォイだ。こっちはゴイルとクラッブ。
まあ、仲良くしよう」
マルフォイに仲良くしようなんて言われた俺は、レアなのか。
妹だったらこれを機に友達としてからかいまくりの毎日になるだろうが、
俺には絶対無理だぞ。
っていうかグリフィンドールでなけりゃいいのか、マルフォイ。
「そういえば……以前、君がポッターたちと一緒にいる所をちょっと
見かけたことがあるんだけど、君は純血かい?」
初めて生で見たけど。
実にドラコ・マルフォイらしい嫌味な微笑だった。
普通、自己紹介の次にその質問をするのかと内心呆れる。
俺は首を傾げたままで、笑って答えた。
「いや、俺は純血だよ?」
「へえ……」
間違ってはないぞ。
俺が言ったのはマグルの純血って意味だからな。
「そうなのかい、それなら君は大丈夫そうだな。それじゃあタカハシ、
また今度ゆっくり話そう」
「じゃーなー」
(いや、俺は遠慮しとく)
心でそう呟きながら寮の方へと歩き出した3人を少し見ていると、
ちらっと後ろの2人が俺を振り返る。
何だろうと俺が見返すと、2人は慌てて目線を逸らしてマルフォイの
後について行ってしまった。
(んん? 何だ今のは――って、ああ!!)
もしかしてあの2人……ポリジュース薬を飲んだハリーとロンか?
スリザリンに聞き込みに行くとか何とか、やってた時の。
本の内容を思い出して、俺はつくづく接点がないなと苦笑した。
何より情報入ってこないから、記憶を頼りにするしかない。
寮が違うし、友達って言っても何でも話せる親友ってわけじゃない。
マルフォイから結局ほとんど情報を得ることができなくて、意気消沈するだろう
3人のことを考えながら、俺は部屋に戻るためにマフラーを巻き直して
また走り出した。
……本当ならハーマイオニーを助けにトイレに行きたい所なんだが、
男と思われてる分、女子トイレなんか行けないしな……。
何で知ってるのかも言えないし。
NEXT.