―隠し事―
ひゅっと息がかすれて喉が鳴った。
そのことに、ルイの背筋にひやりと冷や汗が流れた。
宿屋でレイとルイが “約束” をしてから、すでに数日が経つ。
ルイは未だに拭えずにいる大きな不安を抱えたまま、
兄たちとともにカタートへの道のりを旅していた。
――そしていつからか、身体に不調が現れ始めた。
不調に気がついた時、ルイはただの風邪だと思いこみ、
兄や仲間には体のことについて何も言わなかった。
彼らに言ってしまえば、すぐに町へ急いで宿屋に泊まって
安静に寝かせようとするからだ。
レイはルヴィリオたち仲間に対しては愚痴や呆れなどが多いが、
弟のルイに対しては過保護な部分がある。
急ぐ旅の途中に、風邪気味などと言えるはずもない。
けれど。
風邪ではないことに気づいてしまった。
これは風邪なんかではない。
「……ルイ」
ふいに隣を歩いていたルヴィリオに話しかけられて、一瞬、
奇妙な呼吸音が聞こえてしまったかとルイの心臓が鳴る。
「何? ルヴィお兄ちゃん」
「……体の調子とかは、おかしくないかい?」
「えっ?」
前を歩く兄達に聞こえないようにという配慮なのか、
幾分小さめな声でルイへと問いかけてくるルヴィリオに、
ルイは一瞬だけ感情のままに目を見開きそうになった。
眉をひそめて、少し困ったようにしているルヴィリオへと、
なるべく不自然に見えないように首を傾げてみせた。
「大丈夫だけど……どうして?」
「いや……私の気のせいならいいんだけれど……最近……
少しだけ様子が変に見えてたからね」
「そう?」
「大丈夫ならいいよ」
ルヴィリオは苦笑を浮かべてルイの頭を撫でる。
ありがとう、と返しながらルイは内心安堵の溜息をつく。
仲間の中で一番こういう勘が鋭いのは、実はレイたちではなく
ルヴィリオであるということを忘れていた。
自分が何故ここの所、不調であるのかを知った時。
仲間に気づかれないようにすると、ルイはかたく決心した。
気づいてしまったらもう後戻りは出来ない。
進むしか出来なくなってしまう。
自分が進みたくない道の方向へと。
だから、隠す。
「バースト・フレアーッ!!」
リオナの声に、はっとしたルイは少し離れた前方を見やる。
すると大量のデーモンの群れが向かってきていた。
ルヴィリオは杖を構え直しながらルイを木陰に促すと、
だっ! とレイたちの元へ駆け出した。
「はあっ!!」
「デモナ・クリスタル!!」
ガウリスが剣を一閃させて翼を斬り、デーモンが地に落ちた所を
ルヴィリオが杖を振って氷付けにする。
ディグ・ヴォルトを放ったレイがその場から離れた位置で、
両手を大きく構えた。
木陰でそれを見ていたルイは、戦慄して声が引きつった。
レイが何をしようとしているかが分かってしまう。
どくりと心臓が暴れ始める。
「っ……ぁ……あ……!」
「ルヴィ! リオナ! ガウリス! どいて下さい!!」
レイが唱える呪文を耳にし、三人がデーモンの前から飛びのく。
「ドラグ――」
駄目……。
使わないでお兄ちゃん……。
使わないで使わないで使わないで!!
「スレイブッ!!!!!」
チュドォォオオオオオオンッ!!!
兄の中に揺らめいたくろいなにかと、自分の中で暴れる
痛みに耐え切れず、ルイはぷつりと意識を手放した。
NEXT.