―プロローグ―
「なあ、ゼロスー」
「……はい?」
昼の山道を歩いている途中、やや間延びした声がかけられる。
呼ばれた僕はきょとんと振り返った。
後ろにいるのは、金髪の剣士のガウリイ=ガブリエフ。
ま、彼以外であるはずがないんですけど。
あんな風に僕を呼ぶのは、彼しかいませんからね。
色んな意味で……。
「ガウリイさん、何ですか?」
「おう。ゼロスたち魔族ってのはさあ、何だ、ほら、えーっと……せ、
せー……」
「ったく……精神生命体……でしょ」
「おお! それだ!」
いつも通りのガウリイさんのおとぼけな言葉。
前を歩きつつ、振り返って溜息をつきながら答えを教えるのは、
皆さんご存じ、栗色の髪の魔道士リナ=インバース。
リナさんが呆れているのも気にせず、顔を上げたガウリイさんは
ぽんと手を叩いてにっこりと晴れやかに笑った。
がっくりと盛大に肩を落とすリナさん。
初めて見た人は驚くか呆れるか、はたまた何だこのコンビは、と
不思議がるのでしょうか?
こんなお2人は普段のことすぎて、僕はもう慣れちゃいましたけど。
僕は苦笑してみせて、言葉の続きを促す。
「それで? 精神生命体がどうかしましたか?」
「ああ。それでな、その、せーしんせーめーたい……ってのは、
どんな姿にでもなれるんだろ?」
「はあ……まあ……そんな感じですけど」
何だか、だいぶ違うような気もしなくはないですが。
それが一体、何の話に繋がるんでしょうか?
「じゃあ、何でゼロスはその姿になろうって決めたんだ?」
……そういうことですか。
おぼけなのか鋭いのか、どっちかに決めてほしいですねえ。
以前にもミルガズィアさんの所で 『かなりのじーちゃんなんだな』 とか
空気も読まずに言われちゃいましたし。
あんなに剣の腕が……ゴルン・ノヴァさんを使えるのに。
「それもそうね」
「だろ?」
って、リナさんまで乗ることはないでしょう!?
まったくこのお2人は……。
「別に理由なんてありませんよ……何となくですから」
肩をすくめて、軽く答える。
ガウリイさんは 「ほー」 と、リナさんは 「へー」 と相槌をうった所で、
すぐにこの話は終わってしまいました。
でもまさか、こんな話を振られるとは思いませんでしたね。
ま、別にこれでいいでしょう。
お2人に話す必要なんて、ありませんからね。
どうして僕がこの姿をしているのか――そんなことは。
NEXT.