―伝言―
「ねっねねねねねねねね姉ちゃんから……伝言っ!?」
「えええええええっ!?りりりリナさんのお姉さんって……、
スィーフィード・ナイトさんだったんですかぁあああっ!?」
ガウリイの背後でガタガタと震えながら叫ぶリナと、
別の意味で顔を青ざめさせて驚くゼロス。
ゼロスは顔を溜息をつきながら、少し薄くなった姿でぶつぶつと、
まさかあのゼフィーリアやら、どうりで色々詳しいやら、と呟く。
どうやらゼロスは、ゼフィーリアにスィーフィード・ナイトが
住んでいることなどは知っていたようではある。
だが、その人物がリナの姉であるルナだということまでは
知らなかったようだ。
うろたえるゼロスに、リヴィはまた笑いそうになった。
確かにゼフィーリアは王女からして器が違う。
魔族にとって、ゼフィーリアはあまり干渉したくない土地だろう。
「ええ。ゼフィーリアには会いたい人がいたので寄ったのですが
……急ぎの用事がないならと頼まれまして」
先ほどからすっぱりと子供口調をやめていたリヴィだが、
リナやゼロスたちはそんなことなど気にする余裕はないらしい。
とりあえずいつまでも往来で話しているのも何だと言うことで、
一向は食堂へと場所を移した。
ウエイトレスが運んできたホットミルクを受け取って、
リヴィはこくりと一口飲む。
こうしてじっくりと静かに心を落ち着けてみれば、千年前とは
何もかも違うことを改めて思い知らされる。
魔法の発達も、生活文化も。
――とはいえ。
自分が飛び越えてしまった千年の時がどうなっているのかは、
世界を一目見た時にすべて魂に入ってきたのだが。
知ろうと思えば簡単に知れることだ。
――人間の心などよりは、よほど簡単に。
「そそそそそれでうちの姉ちゃんにどどどどどんな伝言を
預かってきたのでありますのでしょーか!?」
青ざめながらリナが訊く。
思わずくすりと緩んだ口元はちょうどカップで隠れていたようで、
怯えるリナには見られなかったようだ。
ことん、とテーブルにカップを置く。
「普通の話し方で構いませんよ」
「そ、そう?」
苦笑すると、リナは少し落ちつく。
「実はですね、どうやらリナさんにまたちょっかいをかけようと
している者たちがいるとのことです」
「……また? ってことは、前にもあったってことね?」
「ええ。きっと身に覚えがあると思います」
「まあ……姉ちゃんがわざわざあたしに伝言してくるほどだから、
その辺の相手じゃないってことなんだろーけど……」
頬杖をついて、はあーっと重く溜息をつくリナ。
リヴィはひょいと肩をすくめた。
このリナ=インバースという少女が、今までにも色々と
大変な事件に巻き込まれてきたということは分かる。
きっと、あの御方の存在を知ることだけが原因ではないだろう。
「で? リナにちょっかい出そうとしてる命知らずな奴ってのは、
どこのどいつなんだ?」
ガウリイがけろっとした顔でリヴィに訊く。
リナはじろりと睥睨しているが、彼の瞳の奥にこもっている
固い意思には気づいているのだろうか。
いや、気づいてはいないだろう。
リナは “彼女” と違って、その方面に素直ではないだろうから。
「ま、それは確かに僕たちからも言えることですけどねえ。
リナさんにちょっかいを出す時点で命知らずですね、あはは」
「うっさいわっ!!」
からかうゼロスにさすがにリナは怒鳴った。
それはとても面白い。
面白いのだけれど少し落ち着かなかった。
かつてのリヴィの姿で、そんな言動をされてしまうと。
「誰なのかは、リナさんたちはよく知っていると思いますよ。
何せヴラバザード一派ですから」
「……ヴ、ヴラバザードですってっ!?」
大きな声を張り上げたのはリナでなく、今まさに紅茶を
飲もうとしていたフィリアだった。
カップをソーサーに落としたため、テーブルに紅茶がこぼれた。
その横でヴァルが盛大に顔をしかめている。
「はあ……本当に反省してないんですね、ヴラバザードさん」
「ヴ、ヴラ……?」
ぽりぽりと呆れたように頬をかくゼロスの横で、
怪訝そうにガウリイが眉をひそめる。
スパーン!
振り下ろされたスリッパの、小気味いい音が食堂に響いた。
「ぅおのれは本気で覚えてないんかいっ!? まったく……!
何で今頃になってまで、ヴラバザードなんて出てくんのよ……」
苦りきったような顔でリナは肩を落とす。
そしてリヴィはふと気づいた。
彼女達は仲間を失ってから、まだそれほど経っていないのだと。
NEXT.