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黒犬倉庫

版権・オリジナル・ CP 小説中心。よろずジャンルなブログ(倉庫)。二次創作や、オリジナルキャラクターが主軸となる作品が多め。受け付けない方は閲覧はご自重下さい。原作者・出版社等の関係はありません。

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―夢想―

 
 

「……ゆ……夢にまで見るとは……」

飛び跳ね続ける鼓動を落ち着けるよう、胸を押さえる。
柔らかな黒髪をゆらし、少年はゆっくり起き上がった。

ふと落とした目線に、シワだらけのベッドシーツが目に入った。
昨夜はピンと張り詰めてとても清潔だったのに。
起きるまでの間、見ていた夢にどれだけ自分が酷く
うなされていたのかが容易に分かるほどの乱れぶりだ。
息をついて目を閉じる。

瞬間。
瞼の裏で眩い金色が弾けた気がして、慌てて目を開ける。

どうやらカーテンの隙間から差し込んできた朝陽が、
顔に当たっていたらしい。
もう一度だけ、深く息をついた。

もそもそとベッドをだるそうに降りて顔を洗い、
服を着替えて身支度を調える。
夜のうちにまとめておいた手荷物を持って、部屋を出た。
食堂のある一階に降りると、すぐに宿屋の女将が少年に気がつく。

「おや! 早起きなんて偉いねえ、うちの息子にもちゃーんと
 見習わせたいもんだよ。お姉ちゃんはどうしたんだい?」
「お姉ちゃんは朝に弱いんです」
「あれま。じゃあ、先に朝食にしとくかい?」
「うん」

にこやかに話しかけてくる女将に笑顔を返し、渡されたメニューを
一通り見て、女将に告げる。

「クレムスの塩焼きセットと、サラダをお願いします」
「はいよ。これ飲んで少し待ってておくれ」
「ありがとうございます」

テーブルに置かれたサービスのジュースにお礼を言うと、
女将はにっこりと笑って足早に厨房へ入っていった。
こくり、と一口飲むと濃厚な甘みが広がる。
果実が絞りたてなのだろう。

窓の外に目を向けていると、ざわざわと人の声が増えてくる。
食堂にも宿泊客が次々降りてきて、良い匂いが満ちてきた。



「おまたせ! たくさん食べておくれよっ!」
「はい。いただきます」

目の前に置かれた料理から、ほこほこと暖かな湯気がたつ。
女将は快活に笑い、別のテーブルへ料理を置きに行く。
パリッとこんがり灼けた皮の下から、真っ白な身が出てきた。
ふうふうと冷ましながら口に運んでみる。
ちょうど良い塩加減が、魚の新鮮な旨みを引き出していた。

「おはよー……」

かけられた声に少年が目線を上げると、とても眠たそうに
目を擦る女性が、ぼんやりしながら前の席に座った。

「おはよう」
「んー」

本人的にはきちんと整えたつもりなのだろうが、
ポニーテールにしている黒髪は括った部分が少し乱れている。
ぼんやりしたまま、女性は朝食を食べる少年を見やった。

「……あんたってホント朝早いわよねー。眠くないの?」
「だってちゃんと寝てるから。お姉ちゃん寝れてないの?」
「何言ってるの、ぐっすりよ。そりゃもう気持ち良いほどぐっすり。
 ちょっと朝は起きられないだけで」
「方向音痴だもんね」
「ねえ? 私が朝ちゃんと起きられないのと、私が方向音痴なのとは
 まったく関係ないと思うんだけど? ねえ?」

不満げな表情で、少年をジト目で見やる女性。
しかし少年はまったく気にすることなく朝食を取り続けている。

「それにしても、いつもより早いんじゃない?」
「……夢を見ちゃって」
「へえ、夢? どんな夢よ?」

好奇心に首を傾げて、続きを促す女性をちらりと見やる。

どんな夢を見たのか。
感想を口にすればどうなるのだろうか。
いや、こんなことを考えているのも空恐ろしい。

少年はわざと言葉を濁した。

「……ちょっと、ね」
「何よそれ」

不満そうに唸る声。
申し訳ないが、この際無視させてもらうしかない。
そう考えた少年はせっせと朝食を食べつくしにかかる。

何せ朝だというのに、背筋が薄ら寒い。
これ以上は夢の話をするべきではないのだ。
それに言ったとしても、女性に理解を求めることは出来ないだろう。

「そういえばさ、リヴィ? どうしてゼフィーリアなの?」
「だってリュフィお姉ちゃんも、良いって言ってくれたでしょ?
 山道で迷子になって、全然持ってない路銀目当てに盗賊に
 襲われそうになってた時に」
「うっ!」
「それにゼフィーリアには美味しいレストランがあるって聞いて。
 そこにも行ってみたいなって思ったんだよ」
「……ん? それって……」

リュフィが少年が言ったことに何か言おうとした時、
彼女のお腹からグーッと大きな音がする。
思わずくすっと微笑んだリヴィ。
照れ笑いしながら、リュフィは注文の声を上げた。

骨だけが残る皿にフォークを置き、リヴィは窓の外の青く
晴れ渡る空を見上げる。
先日の街道で、ぶつかってしまった神官を思い出した。





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