帝人たちと別れたあたしは、池袋駅の西口方面へ向かう。
何だかんだ帝人たちと話してたら、わりと時間が経ってたらしく、
本屋は別の日でいいかと思い直した。
仕事の用事であたしより先に外に出てたセルティからメールが入って、
近くまで迎えに来てくれることになってる。
今から本屋に向かうと、待ち合わせに遅れるだろうしね。
夕暮れ時になってきたし、それほど人通りが多くなければセルティが
迎えに来ても大騒ぎにはならないと思う。
何たってセルティは 『首なしライダー』 だもんね。
昔から車よりもバイクの方が好き――というか、大型バイクに憧れてた
あたしは、セルティが暇な時とかに頼んで、よくシューターの後ろに
乗せてもらってたりする。
自分じゃバイク運転出来ないから、余計に乗りたくなるんだよね。
“向こう” でも、親からバイクは反対されてたし……。
「やっぱりサイドカーも良いけど、後ろに乗るのがいいよねー」
ぽつりと、そんなことを呟く。
サイドカーに乗るのも面白くていい。
だけどあたし的には、やっぱり後ろに乗る方が好きだなー。
そうすると、本当にバイクに乗ってるって感じがあるし。
あたしはポケットの中に手を入れて、 i-Pod の曲を変えていく。
数回早送りすると、イヤホンからアップテンポのメロディが流れてくる。
英語のロックとポップスは、上手く翻訳出来ない。
それでも慣れたあたしの耳には、峠でバトルする BGM だった。
誰にも聞こえないくらいの小さな音で、鼻歌を歌う。
青になった横断歩道を渡って、西口の方へ歩いていこうとして――
あたしはふと立ち止まった。
するりと音もなく伸びてきた、黒く長い影。
あたしのブーツにゆらりとかかった。
そんなこと、いつもなら気にも留めないはずなのに。
何故かあたしは顔を上げて。
紅の目と視線がぶつかった瞬間――
無視するべきだったことを、あたしはようやく悟った。
フェンスに寄りかかる、ファーつきのジャケットを羽織る男の人。
気持ちのない薄っぺらい微笑を浮かべた表情。
どこか鋭くて、とても冷たくて、とにかく底知れない。
とってつけたような笑みが、にっこりと深い笑みに変わる。
「こんばんは、お嬢さん」
待ち伏せされていた。
そのことにも、あたしは気づいた。
でもまさか、向こうから直々にやってくるなんて。
――あんまり思ってなかったのも事実。
夕暮れが、
悪魔の笑みを浮かべた