「っ……!?」
え、ちょっと待って。
今何が起きてるのか分かんないんだけど。
掌に押さえつけられた視界は真っ暗。
それでいてで、音も不協和音としか受け取れない。
聞こえるのは耳のすぐ横で聞こえるミシミシと何かが軋む音と、
頭に与えられてくる圧迫感。
酷い眩暈が起きたように、ぐらりぐらりと脳が揺れる。
ちょ……気持ち悪くなってきた……。
「散々逃げやがって……ようやく追いつめたぜ」
誰を? あたしを? 何で?
っていうか、逃げてないよーっ!?
怒りに満ちた声に、あたしはそう声を上げようとする。
でも揺れ続けてる脳のせいで、上手く言葉が掴むことが出来なくて、
掠れたように息を吸うのが精一杯。
何これどうしよう……助けてセルティ!
でもケータイはバッグの中だよー!!
「ちょっ、待て待て待てーっ!!ちょっと待て、お前、その子、違うって!!
お前が追ってたのはこっちだ!!」
「…………え?」
遠くから慌てたような声。
それが聞こえたあと、ふと呆けたような声がする。
頭をがっしりと掴んでいた掌が、怯えるようにびくりと震えた。
「……あ、」
何かに恐怖するような掌の震えと声に、何だか胸の内がざわつく。
その様子だと間違えただけなんでしょ……?
サンシャイン通りはいつも人通りが多いからよく見えなくて、きっと、
狙いがズレただけなんでしょ?
思わずそんなことを考えて、あたしはようやく気がつく。
まったく “痛くない” ことに。
掌で頭を鷲づかみにされて、きつく圧迫されてる。
なのに、まったく痛くないっていうのは流石におかしい。
ゆっくりと。
両腕を持ち上げて、頭を掴んでいる手にそっと触ってみた。
酷く震えた手を、自分の頭から優しく外して下ろす。
サングラスの奥の強張った瞳。
あたしと目があった瞬間、呆然と見開いた。
驚いたよ、何にって、偶然に。