「愁ちゃん」
朝陽を見てぼんやりと起きて、朝食を終えて、身支度を整えて。
午後は化粧品とかシャンプーとか買いに行こうと思ってると、
ふと新羅に呼ばれた。
振り返ってみると新羅はにこにこ笑ってて、隣に座って待っている
セルティも何だかちょっと嬉しそうな様子。
あたしは首を傾げながら、二人の待つソファへと移動した。
「どしたの?」
「はい、愁ちゃん。これ見てみて」
新羅に渡されたのは一枚の紙。
眉をひそめて、あたしは紙に書かれた文章に目を落とす。
そこには、何だかとてつもなく固い上に色々と言い回しがされた、
結構小難しい文章が綴られてる。
よく意味が分からないながらも読み進めて――最後の一文に、
ぴたりと目を止めた。
思わず、指先で文字をなぞってみる。
さっき顔を洗ったばかりだから、目が霞んでるというわけでもない。
文字がぼやけてるわけでもないから、視力がいきなり落ちたという
可能性も否定するしかない。
―― 『岸谷 愁』。
書類の一番最後には、はっきりとそう綴られていた。
「……きしたに……?え?岸谷って、新羅の苗字だよね……?」
『うん、そうだよ』
「戸籍もなくなっちゃった愁ちゃんが、どんなに頑張ったとしても、これから
普通に暮らしていくのはやっぱり難しいんだよね。だから愁ちゃんの
戸籍を作るために、俺とセルティの子供になってもらったんゴハァ!!」
新羅がぶっ飛ばされた。
『ふざけたことを言うんじゃない、新羅!! っていうか新羅と愁の
年齢的に子供なんて無理だろうが!!』
慌ててセルティが言葉を添えてくれる。
だけど……あんまり変わらないような気がする。
あたしとは戸籍の話なんて一切してないのに、新羅は昨日の今日で
一体どうやって調べたんだろう。
というか、どうやって手続きしたんだろう。
っていうか、新羅の子供ってどういうことですか?
新羅が私の養父になって、セルティが養母ってことだよね?
つまり、あの森厳が祖父になるっていうこと?
何それ怖い。
呆然とするあたしを放置して。
新羅とセルティはイチャつきながら、これからを話し合ってた。
数時間後。
聞いたのと書類を読み返したのとで分かったことだけど、
結局セルティは私のように戸籍うんぬんの話で終わらないので、
二人の子供じゃなくて、新羅の義妹でした。
苦悩しても遅い、すでに非日常の中