※09年リリー誕生日記念
ふんだんに重ねられたリボン。
透明感があるつややかなシルク。
繊細に施されたレース。
ビスチェ、ノースリーブ、ストラップ。
カジュアル、ラグジュアリー、クラシック。
鮮麗の輝きを放つティアラ。
清楚で上品なネックレス。
世界にただ二つしかないリング。
ホワイト、ベビーピンク、ライトグリーン。
ブラウン、オレンジ、ハニーイエロー。
可愛らしく華やかなコサージュ。
肌触りのいいフィンガーレスグローブ。
やらわかになびくベール。
サラリとカーテンを開けば潤むハシバミの瞳。
ほころんだ笑顔が私の頬を赤く染め上げた。
両腕を広げて颯爽と近づいてくる。
私は恥じらいながらも目元を和ませて。
思いきり蹴り飛ばした。
「うっわ……ジェームズ、顔から壁にめりこんだぜ」
「きっと無傷でいられるのってジェームズぐらいだよねえ」
「シリウスにリーマス。何か言ったかしら」
「「イイエナニモ。」」
ひそひそと交わされている言葉がよく聞こえなくて、すみの方にいる
2人に顔を向ければ、首を横に振られた。
せっかくちゃんと聞いてあげようと思ったのに。
こっそりと溜息をつく。
するとジェームズが猛然と立ち上がった。
「リリー! リリー、リリー! 僕の愛しのリリー!!!」
「ごめんなさいね、ジェームズ。ドレスがなかなか決まらないのよ。
喜んでくれるのは嬉しいけど抱きついちゃ駄目」
嬉しさと哀しみのこもるジェームズの声に言うと、何故だか私を
見ていた2人が固まった。
あらあら、どうしてかしら?
ジェームズは少し残念そうな表情をしたけれど、すぐに素敵な笑顔で
うんうんと頷く。
「分かる、分かるよリリー。この世のありとあらゆるドレスは君に
似合うから本番だけの1着に悩むのは仕方ないよ」
「ありがとう、ジェームズ」
「どういたしまして、リリー。さ、ゆっくり選んで」
私はその言葉に頷いてまたカーテンをしめた。
1人きりになった純白の空間。
けれどにぎやかな3人の声が聞こえてくる。
「おい、ジェームズ。大丈夫か?」
「シリウス、リーマス……僕は素晴らしい天使を見たよ。いや、
女神を見た。いや僕だけの唯一神を見つけた。」
「……リーマス、これ、どうしたらいい?」
「うーん……治すには手遅れだと思うんだけどな」
「学生時代でやっぱり末期だったか」
「うん」
それはいつもと変わらない時間のよう。
すましていた顔が思わず微笑みに崩れてしまった。
今の私――リリー・エヴァンスは、数ヵ月経ったらリリー・ポッターに
生まれ変わる。
最初は悪戯っ子のあの人が大嫌いだったはずなのに、だんだん心惹かれて、
7年生になって付き合い始めた。
ずっと言ってくれていた言葉に答える勇気が出たから。
学生生活最後の1年は目まぐるしくて、とても楽しい1年だった。
少しだけ変わった日常。
ホグズミードでのデート。ハロウィーンの仮装パーティ。
クリスマスのダンスパーティ。バレンタインデーとホワイトデー。
長年の告白を受けた日。
卒業の日のプロポーズ。
いつもは笑顔で嬉しそうに、楽しげに伝えるの。
だけどその時だけは違っていたの。
驚いて何も言えないみたいだったわね。
目を大きく見開きながら、あんぐりと口を開いてた。
もう一度言葉にしてあげたら頭を抱えてしゃがみこんで。
私を見上げて、涙をこぼしたわね。
緊張しながら真剣な瞳で私を見ていたわね。
自信満々の余裕がその日に限ってまるでなかった。
後ろに隠した握り拳がかすかに震えていたのよ。
頷いたら、世界一幸せそうに笑ったわね。
だから私は思えたの。
貴方だからこそ一緒に歩きたいって。
貴方だからこそ一生を託したいって。
貴方だからこそ幸福でいられるって。
「2人とも、今更、何を当たり前な事を言ってるんだい。リリーだよ?
僕のリリーだよっ!?」
「「あーはいはい」」
「さっきからうるさいわよ、3人とも」
「「「ごめんなさい」」」
今まで何も言わなかったのだけれど。
私から何かを言う事はあまりないけれど。
ねぇ、分かってくれてるわよね?
きっと私の瞳を見ただけで。
分かってないふりして私の全てが分かるような瞳で。
望みが全て叶えられるような光に満ちた声で。
これからも貴方は私の名前を呼ぶのね。
ねぇ、分かってくれてるのよね?
きっと私の顔を見ただけで。
「素敵なドレスがあって良かった。本番が楽しみだよ」
「ええ……そうね……」
シリウスとリーマスが帰ったあと。
ソファに座ったジェームズが隣の私を抱き寄せながら幸せそうに
目を細めて、私の赤い髪に口付ける。
私は素直にジェームズの肩にもたれかかった。
数ヶ月後に待っている私達の結婚式。
互いの親友たちと、お世話になった数人の先生たちと、ジェームズの
両親だけが出席するとても小さな結婚式。
だけどその日の私は世界で一番幸せ者ね。
いつもの貴方のように私も断言が出来るの。
「ねえリリー、ブーケの花は決まってなかったよね? 僕は百合か
金鳳花がいいと思うんだけど……どうかな」
「百合は分かるけれど、ラナンキュラス?」
「1月30日、ラナンキュラス……。楽しみ到来、可愛らしさ、貴女は
魅力に満ちている。リリーの誕生花だよ」
何とも素敵な言葉に思わずくすりと笑う。
すると、ジェームズは困ったように苦笑した。
「本当はそこにカルセオラリアも……っとは思ったんだけれど……
さすがにブーケには合わないからね、あれは」
「それがジェームズの誕生花?」
「うん。3月27日、カルセオラリア」
「花言葉は?」
私の問いにジェームズは酷く幸せそうに微笑みながら、
秘密を話すかのようにこっそりと囁く。
珍しく苦笑したジェームズに、彼か結婚式に似合わない花言葉なのかと
思っていたら……とんでもない。
それは何てぴったりすぎる花言葉かしら。
ブーケに出来ないのは残念だわ!
くすくすと笑う私につられてジェームズも笑い始める。
過ぎて行く1日1日がこんなにも楽しい。
私達にはマリッジブルーなんて言葉は似合わない。
だってそんなもの、ありはしないもの。
どうして結婚前に暗くならなきゃいけないの?
幸せを感じられなかったら幸せじゃないわ。
ねぇ、そう思うでしょ?
“私の伴侶” 様。
END. (私の愛する……)