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黒犬倉庫

版権・オリジナル・ CP 小説中心。よろずジャンルなブログ(倉庫)。二次創作や、オリジナルキャラクターが主軸となる作品が多め。受け付けない方は閲覧はご自重下さい。原作者・出版社等の関係はありません。

誓いの朝(願叶シリーズ)


※未来設定


緩やかなまどろみ――ふと、目覚める。
空白の余韻を感じながら、ひとつだけ瞬く。
静かに見上げれば、穏やかに眠るひと。

逞しい両腕に包まれるぬくもり。
心安らぐ、愛しい優しさ。

柔らかな寝顔がひどく幸せで、嬉しい。
ゆったりとした空間に、心はとても凪いでいて。
だから、少しだけ開いた唇に己を重ねるなど。
普段なら恥ずかしいことも出来てしまえる。

さらりと顔に落ちてくる前髪。
起こさないよう、そっと指ではらい。

目を、見開いた。

思わず呆然としていると、大きな掌が頬を撫でる。
目線をずらせば、笑みを含んだ灰色の瞳。
口元が小さく弧を描いた。

優しく顔を引き寄せられて、また唇が重なる。
今度は一度だけではなく、軽く何度も。

「……、ふ……」

吐息が溢れると、啄ばみが止む。
ゆっくりと瞳を開けば、穏やかに微笑む彼。
幸せそうな表情につられて、微笑む。

「おはよう」
「……おはよう……」

くすりと笑いあって。
じっと瞳を見つめる。

「ねえ」
「ん、何だ?」
「これって……」

左手の薬指に嵌められた、指輪。
昨日までは別の輝きが嵌まっていた、場所。
今は誕生日に貰ったものとは別の、輝き。
前の指輪はいつのまにか外されている。

彼は手を取り、指輪に口付ける。
腕はそのまま私を抱きしめ、耳元で低い声が囁く。

「結婚しよう」

霞む視界。
彼は気づかずに囁き続ける。

「誕生日の時のは、婚約指輪のつもりだったからな。
 今日のこれは正式に――結婚指輪として、贈る」

どちらでも良かった。
ああ、私には。

「どうかこれからも、俺と生きてくれ」

私を受け入れてくれた世界で。
大事な人たちに受け入れられて。
誰よりも、貴方に受け入れてもらえて。

幸せだったから。

貴方の傍にいられることが。
愛しくて、大切で、それだけでいいと。

それだけを望み続けていこうとした。
ただ、それだけを。

それでも貴方は、それ以上を望んでくれる。
弱い私を強く立たせてくれるのは、いつも貴方。

私もそれ以上を望んでいいなら。
ああ、貴方とともに、この世界での終を。
この世界の中で。

もう一度、私に始まりを。



「結婚しよう、ハルカ。愛している」
「うん……愛してる、シリウス」



これでもう私は。
世界を、諦めることは出来ない。





Fin.

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