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黒犬倉庫

版権・オリジナル・ CP 小説中心。よろずジャンルなブログ(倉庫)。二次創作や、オリジナルキャラクターが主軸となる作品が多め。受け付けない方は閲覧はご自重下さい。原作者・出版社等の関係はありません。

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10 すこしずつ




燕青が案内してくれたのは、とても美味しい汁麺屋。
きっとこの店が、のちに話題に出るだろう 『妖怪名所』 のひとつになる
場所なのだと琳音は推測をつけた。

「すっごく美味しかった! ありがとう、燕青」
「だろ? 俺もあの店大好きなんだよな」

2人で笑いながらそんなことを話して州府に向けて歩いていると、
周りの店からたくさんの声が飛んでくる。

「おっ! 燕青、誰なんだよ、その可愛いお嬢さんは!? まったく……
 燕青のくせに生意気だぞー!」
「ああ、燕青。州牧様たちお2人は最近どうしてるんだい? あんまり
 無理させんじゃないよっ!!」
「うわあっ! あの燕青が女の子をつれてるなんて!?」

あまりの勝手な言いように、燕青が肩を落とした。
しかし、すぐに気を持ち直すと怒鳴り返した。

「おっ、お前らなあ!!」
「ふふふ」

その必死さに琳音は笑いを溢す。
どんなにふざけていたとしても燕青に向かって飛んでくる言葉たちは、
とても温かみがあった。

燕青と悠舜が10年かけて支えてきた茶州。
こうして身に感じられる。
けれどこれからまだ、辛く苦しい事件が待ち構えていることを
琳音は知っている。
縹家さえもがゆっくりと、動き出してはいる。

……それでも。
この時だけは。

「本当に、とても愛されてるわね、燕青」
「嬉しいのか嬉しくねーのか分かんねーよ、あれじゃ」
「顔がほころんでるのに?」
「う」

琳音がそう指摘すると、燕青は照れたように頬をかく。

稽古ごとに忙しかった琳音はあまり外へ出ず、また州府で仕事に
追われていた燕青はなかなか会う機会がない。
こうして久しぶりに会った燕青は、ボサボサの髪をちゃんとまとめていて、
髭も剃ったばかりらしく頬の傷も見えている。
きっと今頃は髭もじゃになっているのだろうと思っていたので、
琳音は少しばかり驚いていたのだが。

「――これからの茶州を見るのが楽しみね」
「ん? 何か言ったか?」

琳音がぽつりと呟いた言葉は風に攫われたらしく、どうやら燕青には
届かなかったようだ。
聞こえたとしても、英姫以外はその意味を言葉のままとらえるだろう。
くすり、と微笑んで首を横に振る。

秋祭りの前には春姫が……そしてそのあとすぐ影月が……。
今は、今はまだ――。

「時間があったらまたつれてきてね、燕青」
「おう!」

私に出来ることなんて少ないだろうけど、
もしも何か出来ることがあるなら、やってみないと。

先のことは知っているだけ。

琳音は思い直す。
それが決まっているのではないのだから。
今少しの間はこうしていたい。

燕青の笑顔に、琳音はどこかほっと安堵した。





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