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黒犬倉庫

版権・オリジナル・ CP 小説中心。よろずジャンルなブログ(倉庫)。二次創作や、オリジナルキャラクターが主軸となる作品が多め。受け付けない方は閲覧はご自重下さい。原作者・出版社等の関係はありません。

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日常編-2





ぱらぱらと教科書をめくっていた指がとまり、開いたページを
差し出される。
するりと文字を軽くなぞり、書かれている文章を声に出す。

「次のこの部分だが……。材料の中に “シンドレイク” とあるが、
 特に扱いの注意が強調されている。シンドレイク自体は特に
 珍しくない材料だ。それは何故だ」
「シンドレイクは……確か、形状によって効果が変わってくる材料の
 はずです」
「その通りだ。では、その形状と効果がいくつあるか答えてみろ」
「ひとつは、そのままの状態。痛み止め効果があり、様々な調合に使えます。
 ひとつは、粉末の状態。こうすることによって、痒み止めの効果になります。
 ひとつは、煮つめてエキスにした状態。この場合は、毒などの中和効果と
 なります」

顔を上げてすらすら答えると、合っていると頷く。

「エキス状態は使い勝手があるが、劣化しやすく、保存に気をつかう。
 劣化してしまえば薬にならない」

教科書を読むように、淡々と説明が付け加えられる。
思わず聞き逃しそうになり、慌てて羊皮紙のすみに羽ペンを走らせた。
何とか書ききった所で次の質問が飛ぶ。

「シンドレイクにはあとひとつ、形状と効果があるが、分かるか」
「あとひとつ……?」

目を瞬かせて、考え込む。
参考書を手に取ってシンドレイクのページを開いて読んでみる。
だが、そこには答えた以外の形状や効果は載っていない。
他の参考書を見てみるが、どうしてもあとひとつが分からなかった。

「どうだ?」
「……すみません、分からないです」
「まあ、さすがに難しかっただろう。正解はここに載っている」

最初に手に取った参考書の別のページを開かれ、覗き込む。

「エキスを……固める!?」
「先ほど教えた通りエキスは劣化が激しく、加工には向かない。
 しかしこの手順によって凝固したものは劣化しにくく、保存もきく。
 中和と、それを維持する効果がある」
「すごいですね」

示された手順はとても難しく、説明文でさえ辞書を開きたいぐらいだった。
たくさんの知識をつける必要があり、上級者向けということがひしひしと
伝わってくる。
思わず眉をひそめた所で、放課後のチャイムが静かな図書室に鳴り響く。
もうそんな時間になったのかと気づき、窓の方へ目を向ける。
ずいぶんと陽が傾いているのを見て、アルバスは大きく頭を下げた。

「先輩、今日はありがとうございました!」
「……いや、私も復習になったからな」

参考書を閉じながら、セブルスは小さく首を振った。
金曜日の午後、授業がないこの時間に、アルバスはセブルスに勉強を
教わっていた。

「やっぱり魔法薬学はセブルス先輩に教えてもらった方が、一番
 分かりやすいですね……本当に助かってます」
「……お前の兄や、アルフォード教授たちに聞いた方が早いのでは
 ないか?」
「兄さんは教えるのに向いてないんですよ……自分で出来ることしか
 やらないので。説明聞いても分からなくって……。父さんたちも、
 教えられるほど得意ではないって言ってるから」
「……確かに、魔法薬学は適度に勉強していないと理解出来ないかも
 しれないな」

魔法薬学は作る薬によって使う材料も違えば、調合ですら違ってくる。
薬ひとつの製法を覚えるだけならば、魔法薬学そのものを理解したとは
言えない。
セブルスはアルバスの言葉に納得した。

こうして、後輩とはいえグリフィンドール生にスリザリン生が勉強を
教える光景など、今までありえなかったことではあるが、それがこの
アルバスならば話は別だった。

スリザリン生だけでなく、レイブンクローであれハッフルパフであれ、
全ての寮において区別をしないアルバス。
先輩であれば後輩としての態度をとり、同期であれば同期として、
後輩であれば先輩として振舞い、ひたすらに個人だけを見ている。
奇異に思っていた周囲も、今ではアルバスなら仕方ないとばかりに肩を
すくめた。

セブルスでさえその言動に驚かされるばかりであったのだが、
今さら邪険に出来ず、苦手だという魔法薬学の勉強を定期的に
教えてしまっているのだ。
兄であるジムが言っていた、素直で頑固という言葉が脳裏に蘇る。

教科書を片付けるアルバスを横目に、セブルスは息をついた。

「……本当に “気にしない” のだな」

わりと小さな言葉が聞こえてしまったアルバスは、ふと手を止めた。
そして苦笑して振り向く。

「先輩、僕だって……最初からこうだったわけじゃありませんよ」
「……?」
「僕だって最初は、噂ばかり聞いていたから、スリザリンを良く思って
 いなかったこともありました。でも実際にホグワーツに通って、
 色んな人を見て、色んな人がいることを知って……。だから寮だけで
 判断するのは駄目なんだって、思ったんです」

“スリザリン生” と言われて、アルバスが最初に思い浮かべるのは
親友であり競争相手であるスコーピウスだった。

スコーピウスは、ホグワーツ特急に向かうコンパートメントで偶然
一緒になり、ローズとともに3人はすぐ仲良くなったのだ。
組み分けの儀式で一足先にスリザリンに選ばれたスコーピウスは、
帽子の声には驚かず、それが当然という顔をしていた。
だが、アルバスと目が合った一瞬、ばつの悪そうな表情を浮かべた。
そのことを、アルバスは今でも鮮明に覚えている。

当時のアルバスはどうしてか分からなかったが、今なら分かる。
きっとスコーピウスには分かっていた―― “アルバス・ポッター” が
グリフィンドールに選ばれるだろうと、もう仲良くは出来ないと。

「友達になれた人が、寮が違くなっただけで友達じゃなくなる……。
 そんなの、おかしいって。僕はそう思ったんです」

アルバスはスコーピウスの表情を忘れたことはない。
宴が終わったあと、追いかけて話しかけた時、スコーピウスは酷く驚いた。
そして、嬉しそうに微笑んだ表情を。





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