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黒犬倉庫

版権・オリジナル・ CP 小説中心。よろずジャンルなブログ(倉庫)。二次創作や、オリジナルキャラクターが主軸となる作品が多め。受け付けない方は閲覧はご自重下さい。原作者・出版社等の関係はありません。

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新編-前





少年は半ば走るように、石造りの階段を登る。
まるで何かから逃げているような、急いた足取り。
揺れるローブも、上がる呼吸も、何もかも忌々しくて、少年は舌を打つ。

やがて、階段の終わりに見えてきたドア。
飛びつくようにドアノブに手をかけて、思いきり開け放った。
そのとたん、乾いた冬の風が勢いよくぶつかってきた。
突風を目を閉じてやり過ごし、風が弱まってから前へ進む。

立ち止まって大きく深呼吸すると、冷たい空気が身体の隅々まで浸透していく。
様々な感情や考えが混ざりあい、八方塞となっていた頭と心が徐々に
落ちついていくのが分かる。
何度か深呼吸をしてから、少年は顔を上げて風景を見渡した。

少年が登ってきたのは、ホグワーツでも高い場所に位置する塔の上。
立ち入りこそ禁止されていないものの、あまりにも高く、階段が長いために
誰も登らず、ひと気がないゆえ少年の息抜きに度々使われている。
友人やクラスメイトでさえ知らないこの場所は、少年がただ一人きりに
なりたい時に絶好の場所だった。

――しかし。

少年は初めて、その場所から人を見た。
少年が立っている塔からすぐ近くの、屋根の上に。

驚いて思考を止めた少年。
だが、その視線を感じたのか、屋根の上に座って空を眺めていた人物は
くるりと振り向く。
そして少年と同じように目を瞬かせて、驚きの表情を浮かべた。

けれど、視線が合って硬直してしまった少年より先に、我に返って苦笑する。
危うげもなくスッと立ち上がり、ポケットから出した杖を振った。
どこからともなく飛んできた箒に飛び乗ると、その人物は屋根の上から
するりと滑るように去っていく。

去り際に振られた手に、少年は未だに動けなかった。




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