「アルお兄ちゃん、ここが分からないの」
「どこ?」
授業を終えたアルバスとルーナは、図書室で待ち合わせして、
夕食の時間まで2人で勉強することにしていた。
本来いるべき時代と違うとはいえ、きちんと授業を受けているのだ。
何より父親のハリーは最初に言っていた通り、授業内では絶対に
身内贔屓などしてくれない。
「これ。クレムの葉って、鎮痛作用でしょ?こっちの薬と調合しちゃ
ダメじゃない?」
「えーと……この薬か。うん、クレムの葉は合ってるんだけど、
最初にしなきゃいけないことがあるんだよ」
「最初に――あ、すり潰さなきゃ!」
「そうそう」
ルーナはようやく納得がいったように笑う。
下書き用の羊皮紙に説明文を一度書いてみてから、提出用の羊皮紙に
書き写していく。
アルバスはそれを見てから、自分も教科書に視線を戻した。
「ああ、アル、ルーナ。ここにいたんだね」
しばらくすると、ふいに声がかけられる。
二人が驚いて振り向くと、いつのまにか後ろにジムが立っていた。
しかしジムはいつもの制服や私服ではなく、燃えるような真紅のローブを
羽織っている。
アルバスは久しぶりに見た姿に目を瞬き、ことりと首を傾げた。
「兄さん、それって……確かクィディッチ・チームのユニフォームじゃ?」
「ああ、そうだよ。さっきまで一緒に練習に参加してたんだ」
ジムはちょっと疲れたように頷き、アルバスの隣に座った。
「もしかしてお兄ちゃん、こっちでも選手をするの?」
「あはは、さすがにそれは無理さ」
元の時代で、ジムはグリフィンドールのクィディッチ・チームに所属し、
チェイサーとして毎年活躍していた。
キャプテンから直々に、アルバスもやってみないかと誘われたことがある。
だが、アルバスは選手として箒に乗るつもりはなかったので辞退した。
後でアルバスがジムに聞いた話によると、キャプテンがクィディッチの
大ファンらしく、“ポッター”である2人を選手に欲しがっていたのだとか。
むしろその話を持ちかけられた時にアルバスは初めて、かつて父親が
シーカーとして活躍していたことを知ったのだ。
父が持つというファイアボルトという箒さえ、見たことがないのに。
「どういうこと?」
「チェイサーが1人怪我してて、練習に参加出来ないらしいんだ。
それでジェームズが、練習に参加してくれないかってね。これは、
ジェームズの予備のユニフォーム」
「え、兄さん、実際にチェイサーやってるってこと言ったの?」
「言ってないさ。前に授業で軽くクィディッチしただけ」
首を振るジム。
ジムとしては本当に、ほとんど実力を出さなかった試合だ。
むしろビーターとしてアシストしていたシリウスと、シーカーとして
勝利を手にしたジェームズの方がはるかに目立っていたのだ。
そんな試合で、腕を見込まれて練習に参加を望まれるとは、誰もが
思わないだろう。
「――見る目はあるらしい」
ぽつりと呟いた言葉。
それはあまりにも小さすぎて、弟妹には聞こえなかったらしい。
「え? 今何て?」
「そういえば、二人はまだ宿題終わらないのかい?」
「アルお兄ちゃんは終わってるわ。あと、あたしがここを解いたら
終わりよ」
「あー懐かしいなー、その問題」
ルーナの教科書を覗き込んだジムは、くすくすと笑った。
「ちょっと兄さん、ルーナの邪魔しないように」
「してないって」
「本当に?」
軽く睨んでくるアルバスに、ジムはひょいっと肩をすくめた。
ルーナが問題を解き、分からない所をアルバスが教える姿をジムは眺める。
可愛い弟と妹が一緒にいるのを見ると、とても心が和む。
「(そういえば……3人一緒っていうのは、久しぶりかもしれないな)」
元の時代では、ホグワーツにいれば3人だけという機会も増える。
けれどこの時代に来てからは、父親とテッドがホグワーツにいるため、
一緒にいることが多くなった。
3人でいても、いつのまにかジェームズたちが輪に飛び込んでくる。
そのためこうして3人だけで会話をすることが、最近はあまりなくなった。
「(……父さんとテディと言えば……最近、2人で何かやってる
みたいなんだよなあ……)」
いつだったか――。
テッドが戻って来ないことを父が気にしていた日があった。
あの後くらいからだろうか。
2人、特にテッドの方が何か真剣に取り組んでいることがあると、
ジムはとっくに気がついていた。
しかし、それが3人にも関わりがあることなら、ハリーやテッドが
隠さずに教えてくれるということも、ジムはきちんと知っている。
だから今は特に何も言わず、話してくれる時を待っているつもりだった。
「(あまりにも待たせるようなら、突っついてはみるけどね)」
「終わったわ!」
ルーナの明るい声に、ジムは閉じていた目を開けた。
「そろそろ行かないと夕食に間に合わなくなるね。……兄さん、寝てた?」
「まさか。クィディッチの練習はいつもので慣れてるし、それほど
きつくもなかったよ」
「お兄ちゃん、ユニフォーム着替えてこないとすごく目立つわ」
「それもそうだね。2人は先に行っておいで」
NEXT.