「~♪ ~♪」
その日、少年は自分の家の物置を漁っていた。
時折鼻歌交じりになるほど、とても上機嫌であるらしい。
漁って手に取ったガラクタをじっくりと検分しては、
また次のガラクタを手に取る。
少年はそんな行為を数時間も続けていた。
「ジム、ジェームズ? ああ、やっぱりここにいたんですね」
「……ん?」
呆れたような、感心したような声がふいに後ろから飛んでくる。
ジェームズと呼ばれた少年はくるりと振り返ると、
目を瞬かせながら手を止めた。
「あれ? テディじゃないか、いつ来たんだ?」
「ついさっきですよ。お茶にするから皆を呼んできてって、
兄さんに頼まれまして」
テディ――テッドは微笑みを浮かべた。
テッドはジェームズの兄弟のような、従兄のような存在である。
もちろんテッドもジェームズを家族のように接していた。
本当は1人っ子でもあるテッドが 『兄さん』 と呼んでいるのは、
ジェームズの父親のことだ。
テッドの後見人でもある父親とは、ジェームズたちよりも年齢は
離れているものの親子というほどでもない。
だからか、物心つく頃から時折面倒を見てもらっていたらしいテッドは
ジェームズの両親を 『兄さん』 『姉さん』 と呼び慕っている。
「分かった、すぐ行くよ。アルとリリーは?」
「先に声をかけまして……ああ、今2人がこっちに来ますよ」
「待たせてごめんね、テディ。兄さんはそこにいるの?」
テッドのわきからひょこりと顔を見せるのは、ジェームズよりも
少し年下の少年。
ジェームズと2つ違いの弟、アルバスだ。
そしてその後ろから末っ子のリリーが姿を見せる。
あまりにも愛らしいアルバスに、ジェームズは抱きつきたくなるが
ぐっと肩が強張り、抱きつく代わりに憎まれ口を叩いてしまう。
「何だ。1人で物置に来るのは怖かったのかい、アル?」
「違うよっ! リリーと探してたんだよ!」
「お兄ちゃんったら……」
頬を膨らませて怒るアルバスの顔。
ジェームズは内心で大きく後悔の溜息をつく。
可愛いアルバスを、撫でくりまわしたいのがジェームズの本音だ。
けれど、昔から悪戯をしてからかうのが日課になってしまったせいか、
アルバスに対して、素直に愛情表現が出来なくなっている。
その分ジェームズは、末っ子の妹を溺愛していた。
ちなみに両親やテッドはそれを早くから見抜き、何も言わないでいる。
アルの後ろでいつもの兄たちのじゃれつきを見ていたリリーが、
肩をすくめながら口を開く。
「ねえ……早くリビングに行きましょうよ。じゃないと、
ママが来て怒るわ」
「はずれだよ、リリー。母さんじゃなく父さんが来ました」
「「「「あ」」」」
四人の子供たちは、ぎくりと肩を揺らす。
おそるおそる後ろを振り向くと、開いたドアの横の壁に背を預け、
腕を組みながらにっこりと笑っている父親のハリーがいた。
滅多に本気で怒らないハリー。
けれど一度怒ると、ものすごく怖いと子供たちは知っていた。
叱ることの多い母親より、更に違う意味を増して。
ジェームズは、ハリーがまだ完全に怒っていないと瞬時に悟る。
慌てて立ち上がった瞬間、ジェームズの肘が棚にあたって
ぐらりと揺れる。
気がついた時には、ジェームズの視界は影に覆われていた。
「ジェームズ!」
張り詰めたハリーの声とともに、
ジェームズの意識は落ちていった――。
NEXT.