「目が覚めた?」
「――侑子さん?あれ、私どうし……?」
「寝不足で倒れたのよ。体調は大丈夫だけれど……どうする?
まだ寝てる?」
「……いえ……大丈夫です」
「そう」
ベッドから身を起こす私を、侑子さんは静かに見やってる。
寝不足で倒れたって、何か情けないやら恥ずかしいやらで複雑だな。
あ。
っていうことは、確実にエリオル君の目の前で倒れたってことだよねっ!?
うーわーっ!!! 何だその失態!!
初対面だっていうのに、かなり恥ずかしいじゃん!!!
思わず、内心で激しく悶絶する。
小さく震える私を、侑子さんは小さく笑いながら眺める。
「それじゃあ起きた所で。雪里、早速やってほしい仕事があるんだけど、
いいかしら?」
「あっ、はい。何ですか?」
「服にね、きちんとアイロンをかけてほしいの」
服にアイロン?
侑子さんにつれられて宝物庫に行く。
すると、マルとモロがキャスター付きの洋服がけを引いてきた。
ハンガーにかけられてるのは、4着の見慣れない服。
それは……何ていうかもう、どんなに形容しても……ボロッボロ?
防具がついてる黒いマントに、ファー付きの白く長いコート。
白い女の子の服はそうでもなかったけれど、茶色いマントの服だけが
汚れてるというより、かなりボロボロの状態だった。
長い間愛用してたのか、それともそうなるような所にいたのか。
それは私には分からないけど……。
まあ、とりあえず与えられた仕事なんだし。
ちゃっちゃっとアイロンがけ、しちゃいますか!
マルとモロに服を取るのを手伝ってもらいながら、アイロンをかけてく。
きっと君尋ならこういう時も、布の性質とか型崩れとか気にするんだろう。
私が男だったら絶対嫁にもらってるぞ。
「……ん?」
ご……ごめん君尋……。
今一瞬だけ、君尋が本気で“男”じゃなく“女”だって勘違いしてた……。
だって私よりも家事が得意だし、まったく見習わせたい!!
見習わせたいって……誰になんだろう……?
……まあ、別にいいか……対価で渡した記憶なんだろうし。
「ふぅ」
これってきっとアレだよね?
記憶喪失の人が、あたかも思い出したかのような言動をするやつ。
何だか最近になってから、色々と考えごとしてる時とかに、
そうなってるのが多いんだよねえ。
ようやく自分でも不思議だなって気づいた時には、もうすでに
『あれ?』『何で?』っていう状態になってるし。
私が侑子さんに渡した対価は記憶――。
そう聞いた時に侑子さんは、そうとも言えるし違うとも言えるって
言ってた。
もし、対価として正式に記憶を侑子さんに渡しているんなら、
こんな風に感じることもないはず、だろうけど……うーん……。
NEXT.