「……ん?」
あ、もうこんな時間だ。
私はふと見上げた壁の時計を見てそう思う。
もうそろそろエドとアルとウィンリィが学校から帰ってくる
頃合いだね……。
昨日はばっちゃんの家の手伝いとかしてて行けなかったから、
今日はちゃんと迎えに行くかなー?
私は出かける準備のために立ち上がって、本棚から1冊の本を抜き取る。
迎えに行くついでに、ウィンリィに約束してた本を渡さないと。
忘れたら明日になっちゃう。
ああ、じゃあ、それまたついでに――。
ぴた。
くるりと振り向く私の額に、柔らかな感触が急に吸い付いてきた。
その寒色に、私は思わず沈黙する。
目の前にアップで見えてるのは、眉をひそめた母さんの顔。
うんうん、母さんは顔をしかめても変わらず美人だね。
でも……いきなり何?
瞬きを繰り返しながら母さんを見やる。
「ううん……」
いつもの母さんは笑って安心させてくれるのに、何だか今日は、
どこか心配するような雰囲気があった。
「……どうしたの? 母さん……」
「それは私のセリフなのよ。ねえセツリ、あなた……最近ちょっとずつ
顔色が悪くなってるわ……」
母さんは、顔を覗き込むようにして私に言う。
顔色が悪いって言われても――。
頬をカリカリとかいた。
「そう……かなあ?」
「そうよ。それにエドもアルもちゃんと気がついてるわ。だから最近は、
セツリの前で喧嘩をしなくなったでしょう?熱はないみたいだけど
……体はだるかったりしない?」
いや……そう言われれば確かに最近エドとアルは私の前でめったに
兄弟喧嘩とかしなくなったけどさ……。
ない、と言おうとして。
母さんの顔を凝視してしまった。
目が強く言ってる。
嘘ついたら絶対許さないわよ? って。
セツリの嫌いなアレ食べさせるわよ? って。
それで良いなら言ってごらんなさい? って。
あわわわわわわわわわわわっ!!!!
アレは、母さんの料理でも、アレだけは食べるの嫌だっ!!
D. グレの世界でもエドとアルにも、アレが嫌いなことだけは
誰にもバレてないと思ってたのにぃい!!!
ひぇえええええええええっ!!!!!!!!!!
あああ、アレだけは絶対に食べたくないんです!!!
私は顔を真っ青にして、ぶんぶんと首を振った。
「イイマス、イイマス! 母サン、ユルシテクダサイ!! だ……
だるくはないけど……最近起きるのが辛い……かな?」
「今日はピナコさんは出かけてていないから、別のお医者さんの所に
行きましょうか」
決定事項!?
「かかか母さん、待って待って待って!! だい」
「大丈夫って言うのは駄目よ」
「じょっ!」
慌てて止めようとすると、母さんはにっこりと笑った。
うあああ……バレてたよっ!!
ひええ……母さんがかなり怖いよーッ!!
NEXT.