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黒犬倉庫

版権・オリジナル・ CP 小説中心。よろずジャンルなブログ(倉庫)。二次創作や、オリジナルキャラクターが主軸となる作品が多め。受け付けない方は閲覧はご自重下さい。原作者・出版社等の関係はありません。

傍観の円舞曲-ワルツ- 第18曲



 

ぎしりと揺れる、ロッキングチェア。
楽しげに揺らしながら、絵本を開いている
子供の様子に目を細める。

柔らかな黒髪と輝く黒い瞳。
茶髪で緑の瞳を持つ自分とは似ても似つかない。
顔も、あの子は東洋系で自分は西洋系だ。

――子供は数年前まで名前を持っていなかった。

子供は実の両親に 『愛し子』 と呼ばれていて、
彼らに名前を授けられずにいた。

それは、憎まれていたからではなかった。
子供の魂を自分たちの細い鎖できつく縛りつけて
しまわないようにと、心底願っていたからだ。

惜しみのない純粋な願いと想いの代わりに、
子供は名前を与えられなかった。
そして子供を守るため、出会ったばかりの自分に
子供を託して自ら世界から消えたのだ。

目の前で両親が消えてしまったその日のことを、
幼すぎたせいなのか子供は覚えていない。
彼らの愛情しか覚えていないのだ。

もうその瞬間を覚えているのは、
その場で子供を抱きかかえていた自分だけだ。
彼らの表情、願い、頼み、想いさえも。

『愛し子の名前を教えてくれ』 。

傲慢で、かけがえのない人を失ってしまった。
罪を受けるべき自分の過去を知ってなお、
彼らは笑ってそう言ってくれたのだ。

彼らの想いを託された自分。
全力で応えなければならない。

愛し、守り、教え、導くために。
今度こそ一生をかけて――。



「おじさん」
「どうしたんだい? 雪里」

ふいに呼びかけてくる子供の傍に近寄ると、
開いていた絵本を持ち上げた。

「このひとたち、おとーさんとおかーさん?」
「……よく見つけられたね」

どうやら自分が絵本と思っていたのは、
子供の両親の写真が数枚だけ張られているアルバム。
静かに頭を撫でると、子供は無邪気に笑った。





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