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黒犬倉庫

版権・オリジナル・ CP 小説中心。よろずジャンルなブログ(倉庫)。二次創作や、オリジナルキャラクターが主軸となる作品が多め。受け付けない方は閲覧はご自重下さい。原作者・出版社等の関係はありません。

傍観の円舞曲-ワルツ- 第9曲



 


カランカラン……



静かな午後、鈴の音が店の中に響く。

入ってきたのは三十代頃の男性。
顔こそは日本人だが、その髪は見事な銀髪だった。
記憶に残りにくそうで――印象には残る雰囲気。

その客を見た店主は微笑んだ。
すると客も微笑む。

ただ店主のものと違い、内の見せないものである。

「いらっしゃいませ。お久しぶりですね」
「はい。お変わりありませんか」
「この通り何も変わってませんよ」

くすくす、と店主は声をたてる。
楽しそうだが客は黙って微笑している。

「さて、今日はどのようなご用件で?」
「どのようなとは?」

からかうような声色で、男性は答えを質問で返す。
しかし店主は気にした様子もなく。
軽い動作でロッキングチェアに腰かける。
きしり、と木作りの音が鳴る。

「半井助教授として?」

それとも、と続ける。





「ル・シャスールとして?」





男性はじっと笑んだまま答えない。
ただ一言だけ、言った。

「 “王冠” に今は興味ありませんよ」
「そうですか」

意味ありげな言葉に店主は頷く。
そして男性と似たような笑みを浮かべた。
他人には何も読ませない。

“仕事” であれば。

今はまだ、店主と客の間柄で。





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