カランカラン……
静かな午後、鈴の音が店の中に響く。
入ってきたのは三十代頃の男性。
顔こそは日本人だが、その髪は見事な銀髪だった。
記憶に残りにくそうで――印象には残る雰囲気。
その客を見た店主は微笑んだ。
すると客も微笑む。
ただ店主のものと違い、内の見せないものである。
「いらっしゃいませ。お久しぶりですね」
「はい。お変わりありませんか」
「この通り何も変わってませんよ」
くすくす、と店主は声をたてる。
楽しそうだが客は黙って微笑している。
「さて、今日はどのようなご用件で?」
「どのようなとは?」
からかうような声色で、男性は答えを質問で返す。
しかし店主は気にした様子もなく。
軽い動作でロッキングチェアに腰かける。
きしり、と木作りの音が鳴る。
「半井助教授として?」
それとも、と続ける。
「ル・シャスールとして?」
男性はじっと笑んだまま答えない。
ただ一言だけ、言った。
「 “王冠” に今は興味ありませんよ」
「そうですか」
意味ありげな言葉に店主は頷く。
そして男性と似たような笑みを浮かべた。
他人には何も読ませない。
“仕事” であれば。
今はまだ、店主と客の間柄で。
NEXT.