僕は時折、胸を掻きむしりたくなります」
「何で」
「蟠っている燻りをどうにかしたくなるんです」
「ふーん」
「燻りが胸の奥から全身に巡るような感覚があります」
「へえ」
「最初は手足に巡って、そして脳に届きます」
「そうか」
「脳に到達すると、自分の意義を問い始めます」
「意義ねえ」
「自分の在り方を見失い、居場所をも疑い始めます」
「意味ねえ」
「誰も責めはしないけれど、ここにいていいのだろうかと」
「意地ねえ」
「どこへ向かうのか、なにをしたいのか分からなくなります」
「意思ねえ」
「そこからは自分自身をも見失い始めます」
「だろうよ」
「見失いかけたものを取り戻そうとして傷をつけます」
「ほう」
「痛みで少しずつ自分が戻ってくるのです」
「錯覚だな」
「ええ、錯覚です。本当は最初からそこに在るのですから」
「弱いな」
「ええ、弱いです。本当は最初から解っているのですから」
「ありきたり」
「ええ、甘えです。自分が与える痛みで自分を落とせるのです」
「それでも」
「ええ、そうです。それでも時折、胸を掻きむしりたくなります」
「いつでも」
「ええ。いつだって僕は僕のことは見たくありません」
「嫌いだからな」
「ええ。自分を好きだなんて言える強い人、眩しすぎますから」
「強いのも弱いのも」
「ええ、嫌いです。僕自身が僕自身の心を揺らすことも」
「全ては」
「ええ、嫌いです。自分のことを好きと言う、笑顔の僕なんて」
END.