忍者ブログ

黒犬倉庫

版権・オリジナル・ CP 小説中心。よろずジャンルなブログ(倉庫)。二次創作や、オリジナルキャラクターが主軸となる作品が多め。受け付けない方は閲覧はご自重下さい。原作者・出版社等の関係はありません。

ネックレス秘話(願叶シリーズ)


※願叶主人公
※本編の裏


「にゃあ」
「……ん?」

クルックシャンクスに頼んで、持ってきてもらったファイアボルトの
注文書を読んでいると、ふいにもう1枚の紙束を渡してきた。
私は何だろうかとそれを受け取ってみる。
目を落としてみれば、それはジュエリー関連のチラシと注文書。
きっとファイアボルトの注文書を取ってくる時に、ホグズミード辺りで
同じように拾ってきたのだろう。

「……何故、これを私に?」
「にゃああう」

首を傾げてクルックシャンクスに問いかければ、クルックシャンクスは
心底呆れたような声色で鳴いた。
その姿はまるで、在りし日のジェームズにもされていたような。

「……?」

私は不可思議に思いながら、もう一度チラシを眺める。
チラシには、きらびやかなネックレスやリングなどのジュエリーの写真が
ずらりと並んでいる。
ふいに、チラシの下の方にあったネックレスに目が止まった。

細い銀細工の鎖に、透き通るオレンジの小さな石。

他のネックレスやリングに比べればとてもシンプルな作りをしていて、
周りの豪華な宝石の中に埋もれて、多少見劣りしている気がする。
けれど、台座の細工と、オレンジの石が特殊な加工をされているらしく、
小さくても値段はそこそこの代物だ。

そのネックレスに見入っていると、ふと脳裏に笑顔が浮かんだ。
春のひだまりのような、温かくて優しく、愛らしい笑顔。

そこでようやく、私は気づく。
ゆっくりとクルックシャンクスを見下ろした。

「もしかして……これをハルカに、ということか……?」
「にゃあ」

クルックシャンクスは頷いた。

確かに、私はハルカには助けられてばかりいる。
脱獄囚である私を信じて待っていてくれたばかりか、あの時の約束通り
ハリーを守ってくれていて、危険をかえりみずこの場所へ食事なども
持ってきてくれている。

自分が無実であるという真実と、ハルカがくれた行ってらっしゃいという
あの言葉があったからこそ、私はきついアズカバンでも正気を保てた。
一緒に食事を取りながら交わす会話に、ささくれていた心が癒される。
けれど私は、ハルカに何もしていない。

思い出すのは彼女に罵声を浴びせていたこと、ジェームズたちを
守れなかったと泣いたこと、待っていたと笑ったこと。

――私は彼女に何をするべきか?

私はファイアボルトの注文書に記入し終えると、ジュエリーの注文書に
オレンジの石のネックレスに書かれた番号を記入する。

これを彼女に贈った所で、何かが変わるわけではないだろう。
私が彼女にしていた行いが消えるわけではない。
彼女に背負わせてしまった重荷が、軽くなるわけでもない。
それでも、私は彼女に何かをするべきなのだ。

備え付けのカードに載せる言葉の、メッセージ欄。
私は一瞬だけ瞳を閉じて、羽ペンを動かす。


『今までの謝罪と、全ての感謝を』 ――。


今はこれだけだ。
あとの言葉は、私から言わないといけないのだから。
願わくば、彼女が喜んでくれることを。





END.

拍手[0回]

PR