ジェームズが笑うと、ピーターが青ざめた顔でびくりと震えた。
口がぱくぱくと動いているが、何も言えないようだ。
その様子をジェームズは寂しそうに笑って見つめている。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「ピーター」
「ジェ……ジェームズ?……そ、そんなっ……」
「僕は君を裁きに来たわけじゃないんだよ。もちろん、
責めに来たわけでもね」
その言葉に我に返ったシリウスが、反論の声をあげる。
「だ、だが!ジェームズ、お前!」
「うるさいよ馬鹿犬。ハリーが言った言葉を忘れたのかい?」
じろっと睨むとびしりっ!と姿勢を正すシリウス。
それはまるで、強制的に“待て”をやらされている犬のよう。
「……ハリー、君が決める権利がある」
リーマスが静かにハリーの顔を見やった。
ハリーはゆっくりと顔を上げるとジェームズの顔を見て、
そして青ざめながらぜいぜいと喘いでいるピーターを見た。
最後にシリウスたちを見て、はっきりと言った。
「……アズカバンに行けばいいんだ。城に連れて行こう」
「ありがとう、ハリー」
にっこりとハリーに笑いかけると、ジェームズはずっと
抱き締めていた腕を解く。
そして壁の下にうずくまるセブルスへと、顔を向けた。
つかつかと近づいていって、ひょいっと上から覗き込んだ。
じっとその姿を見たあと、にやりと悪戯っぽそうに笑ってみせた。
「セブルス、どうせもう起きてるんだろう?今までの話も
全部、聞いていたね。ピーターを城に連れてくのを、
手伝ってくれないかい?」
すると気絶していたはずのセブルスが、ぐっと体を起こした。
むっ、とシリウスが嫌悪の表情へと顔をしかめる。
「貴様……ポッター……」
「やあ、セブルス!久しぶりだね。まあ、そういうわけさ」
にこにこと笑いかけるジェームズ。
セブルスはゆっくりと立ち上がって、ローブの埃を落とした。
だがその後でぎろり、とジェームズを睨んだ。
「我輩は」
「“僕を許したわけじゃない”だろ? それは分かってるよ」
「……ちっ……」
視線を逸らして、セブルスは小さく舌打ちをした。
「さて、それじゃあ遅くならないうちに行こう」
「ストップ」
先を促したリーマスを、ジェームズは肩を叩いて止める。
どうしたのかと首を傾げて怪訝そうに見てくるリーマスを、
ジェームズは多少呆れながら逆に見返した。
「おやおや、リーマス?今夜が満月だってこと、すっかりと
忘れてるだろう?悪戯仕掛け人、参謀リーマス――動揺しすぎで
うっかりする……かな」
リーマスを筆頭に、ようやく気がついた全員がはっとする。
気にしていなければ月の満ち欠けなど、忘れてしまうのも分かる。
それに、こんなことがあった日だ。
脱狼薬を飲んでないのだから、体調だって良くないだろうに。
「はい、セブルスの部屋からかっぱらってきた脱狼薬。
それじゃあ僕とリーマスはここに残るから、シリウス、
セブルス、後を頼めるかい?」
とたんにぐおっと顔をしかめる二人。
お互いの密かな睨みあいが、激しい火花を散らしている。
ジェームズはそんな二人を綺麗に無視して、ピーターに向き直る。
「あ……、しっ……ぃ……っ!」
がたがたと震えている親友に、ジェームズは首を振った。
悲しげに見つめて静かに答えた。
「もう何も――繕わなくていいよ。ピーター」
「……ジェームズ」
6人が屋敷から去ると、リーマスは静かにジェームズを呼ぶ。
いや、呼んだというよりは呟いた方が正しいだろう。
「何だい?」
「え……いや、えっと……行かなくて良かったのかい、
ハリーと一緒に?」
「ああ、心配しなくても大丈夫だよ。夜明けになったら君と
一緒に城へ戻るからね」
ぼすんとベッドに座り、ぱんぱんと埃を振り払うジェームズ。
けれど埃っぽすぎて、あまり綺麗にはならなかった。
ジェームズの行動を見つつ、リーマスは小さく苦笑した。
「私ならもう大丈夫なんだけれどね……」
するとジェームズはベッドを叩くのを止めた。
振り返り、真面目な顔でリーマスに訊く。
「脱狼薬があるからかい? それとも大人になったからかい?」
「ジェームズ……」
「そんなことは違うだろう?」
重々しく深い溜息をついたリーマスは顔に手を当てて、
ひどく疲れたように項垂れる。
そのリーマスに、ジェームズはふっと微笑んだ。
「我が友ムーニー、13年間すまなかったね。これから君はまた
昔のように仲間が出来る」
「うん――そうだね。ありがとう、我が友プロングス。また君に
会うことが出来て嬉しいよ……」
リーマスは涙目で照れたように微笑んだ。
NEXT.