炎の甦りに微笑む蒼
角を曲がった時に、ふと廊下を歩く大きな後ろ姿が見えた。
「ハーグリーッドー!」
「おお、アオイじゃねぇか、久しぶりだな! お前さん、最近俺のとこに
まったく来ねぇから、どうしたもんかと思っちょったぞ?」
俺は走り寄って声をかける。
すると、振り返ったハグリッドは笑ってそう言ってくれた。
ハグリッドとはハリーたちの紹介で会ってから、一人でも何度か
遊びに行ってたらしだいに仲良くなったんだ。
「いやーごめんごめん、外に出ると寒くってさー。こっちの寒さって
まだ慣れてないんだよね。あ、そーだ、ハリー見なかった?」
「おお、ハリーなら向こうに行っとったぞ」
「そっか。ありがとー!」
お礼を言って俺は軽く手を振りながら、ハグリッドと分かれる。
教えてくれた廊下を、俺はたかたかと走る。
のろのろ歩くよりも走ってた方が、体があったまるからな。
少しの間、軽く走りながらきょろきょろと廊下を見回して探してると、
怒ったような表情をしたハリーを見つけた。
「いたいた、ハリー!」
「え?」
そのまま走り寄ってくとハリーは一瞬驚いたように俺を見つめて、
また暗い表情に戻ってしまった。
無理もないその雰囲気に、俺は苦笑しながら隣を歩く。
ちらっと俺を見たハリーは、溜息をついて言った。
「……アオイは僕といて、いいの? 寮の友達と一緒にいた方が、
良かったんじゃないかい?」
「んー?」
色々とイラついてるからかハリーの声には刺は少しあるけど、
どんよりとした色の方が大きかった。
「別に俺は、この事件をハリーがやったとはまったく思ってないぞ?
もちろん俺の友達もそう言ってる」
「え……」
「本当だぞ?」
(ホクトとレーチェが俺の目の前で言ったから、これはかなり信用性が
高いんだぜ♪)
俺もあの2人のことはかなり信用してる。
表裏なくって、飾らなくて、本音で向き合ってくれてると思う。
それに、巷で怪しまれ始めてる俺のことも、ちゃんと信用してるって
言ってくれたからな。
「だいたいさー、こういう場合の犯人ってのは怪しまれないように
アリバイ作ってるのが普通だろ。自分から都合が悪い弱点バラして、
犯人ですよーって言う奴がいるか?」
「それは……そうかも」
にっこり笑うと、ようやくハリーも苦笑気味に笑った。
――だけど足が何かに引っかかった感覚とともに、横を歩くハリーの
顔がいきなり消えて、次に目に飛び込んできたのは冷たいカーペットだった。
(……あー、転んじったよ……。カッコ悪ぃな、カッコ悪ぃよ、ばーい桃城
……なんてな……)
俺は遠い目をしながら、溜息をついた。
それにしても痛いな……一体何に足を引っかけたんだろうか、
俺は――。
「「ジャスティン……!!」」
俺とハリーの声がぴったりと重なった。
横には、ふわふわと動いたりしないサー・ニコラスが浮いてる。
真っ青な顔をして胸をぎゅうっとおさえてるハリーの隣で、ゆっくりと
俺は立ち上がった。
正直、ジャスティンが襲われるのは、もう少しあとかと思ってた。
まったく……今日だったのか……。
正確に覚えてないのが悔やまれる。
「襲われたぞー!! また1人おーそーわーれーたー!! 逃げろ逃げろ、
危ないぞー!! ポッターとタカハシの嫌な奴らが追いかけて
くーるーぞー!!」
突然現れたピーブスの大声が、廊下に響き渡る。
ひと気がなかった廊下はすぐに野次馬の生徒で埋まってしまう。
ピーブスめ、後で絶対に仕返しするからな。
「……私の手には負えなくなりました。おいでなさい、ポッター、
タカハシ」
ごったがえす生徒をかき分け、大急ぎで走ってきたマクゴナガル先生が
厳しい顔をしながら、俺とハリーを連れて歩き出す。
そういえば俺も初めて入るっけ……校長室には。
俺とハリーは校長室に二人で残される。
ハリーはもう絶望したような雰囲気に陥ってるけど、さすがに巻き込まれると
思ってなかったわりに、まったく心配なんてしてない俺は笑みを浮かべて、
さっそく壁際にいるよぼよぼの鳥に近づいてく。
不死鳥のフォークスは、すごく見てみたかったんだよな。
何たって、今日は“燃焼日”だし!!
『フォルか――懐かしい……』
ふいに、サラザールのいつもより優しい声がした。
ハリーに聞こえないよう小声で訊き返す。
「……サラザール、フォルって?」
『この不死鳥……フォークスの愛称だ。ゴドリックがいつもそう呼び、
私たちもそう呼んでいた』
「へえ……そうなんだ」
ゴ……ゴドリックときましたか。
じゃあ、このフォークスはゴドリックのペット?
「うーん、何か俺って創設者ばっかと関わってるよな……」
もっと下の年代来てもいいんじゃないか?
俺的には親世代が少ないと思うぞ。
そんなことをつらつらと考えてると、ハリーも俺がじっと見ていた
フォークスに興味を持って近づいてきた。
ハリーは不死鳥のことを知らないらしく、怪訝そうにしながら間近で
フォークスを見つめた。
ボッ!
何の前触れもなく、フォークスはいきなり炎に包まれて瞬く間に
灰になってしまった。
(うわー、危ない危ない……)
身を引くのがもう少し遅れてたら、顔に火傷してたかも。
ドアの開く音に振り返ると校長が部屋に入ってくる。
校長の姿を見て、ハリーが慌て始めた。
「せ、先生、あの、先生の鳥が……」
「フォークスは不死鳥なのじゃよ。 “燃焼日” と言ってのう、
死ぬ時が来ると炎となって自ら燃え上がり、灰の中から蘇る。
それが今日じゃったようじゃ。さあ……2人とも、よく見てごらん」
にこにこと笑う校長に促されて灰を見下ろすと、もぞもぞと灰が動いて
小さな雛の頭がひょっこりと出てきた。
俺とハリーがそれに安心して笑いあった時、今度はハグリッドがドアを
壊しそうな勢いで部屋に飛び込んできた。
「ダンブルドア先生、ハリーとアオイじゃねぇです! 2人とも、俺と話をしてて
そんなことをする時間などなかったです!! 2人はそんなことは、
絶対に――」
「ハグリッド!! わしは2人がやったとは思っておらんよ」
めちゃくちゃ興奮しながらも、何とか俺たちを弁護しようとしてくれた
ハグリッドを、校長はしっかりとした声で止める。
校長の強い言葉に我に返ったハグリッドが、ばつが悪そうに部屋を
出て行くのを見てから、ハリーは声を出した。
「先生は僕たちじゃないとお考えなのですか?」
「もちろんじゃよ、ハリー。……じゃが、2人はわしに何か言いたいことは
あるかの?」
校長の青い瞳がまずハリーを見て、俺を見る。
「特にないですよ」
俺はきっぱりとそう答えた。
パーセルタングのことは、ずっと前にきちんと話しておいたし。
「……いいえ、ありません」
「ふむ――」
ハリーは少し沈黙してからそう答えた。
答えに頷くと、校長は俺とハリーに戻っていいと言ってくれた。
俺は階段を降りる前に居心地悪そうにしてるハグリッドに、もう一度笑って
お礼を言った。
「信じてくれてありがとな、ハグリッド!」
NEXT.