忍者ブログ

黒犬倉庫

版権・オリジナル・ CP 小説中心。よろずジャンルなブログ(倉庫)。二次創作や、オリジナルキャラクターが主軸となる作品が多め。受け付けない方は閲覧はご自重下さい。原作者・出版社等の関係はありません。

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

蒼紅 4


蒼と記憶と杖




「……そもそも……何でこの世界の人間じゃねぇ俺が、
 紅眼なんかを引き継いでるんだよ?」

俺は恨めしそうに問いかける。

アルビノなんかじゃない普通の人間には、ありえない瞳の色。
この瞳のせいで、子供の頃はいじめが酷かった。
俺にはこの瞳を綺麗だと言って、傍で守ってくれる院長や夕菜とか
亮一たち家族がいたから、いじめに屈しなかったけど。
今考えて見ると幼稚な悪戯だけど、辛かったのは間違いない。
妹が普通だったことには安心してたが。

俺がじろりと少し睨むようにしてサラザールを見上げてみると、
一瞬だけ沈黙したサラザールは静かに答える。

『……我は生前、転生――己の生まれ変わりなどは必要ないと思っていた。
 その代わりとして、私の紅眼を子孫と呼ぶべき後継者の印としていたのだが……
 我が死す時、我の魔力全てがお前の魂へと取り込まれてしまったのだ。
 汝の紅眼はいわば、我の魔力の副作用として色づいたもの』

副作用……ね。
何だか、どこかしっくりとしないものを感じる。
俺はふと気になったことを訊いてみた。

「……そういえばサラザールはいつの記憶なんだ? 何で俺なんだ?」
『我は、我が死すしばらく前に封じられた記憶。なので、明確なことは
 分からぬ。……だが、我の魔力は確かに汝の中にある。
 汝が真の紅眼であり、なおかつ、我が杖が後継者と認めたのだから』

サラザールは俺のまとまりのない質問に、淡々と答えてくれる。
その答えを聞いて、俺はピンときた。

「……なあ。もしかしてヴォルデモートが、娘だの、片腕になれだの
 おかしなこと言ってきたのって……それが原因なのか?」
『そのようだ。我の残した魔道書を、奴は杖とともに見つけたらしい。
 魔道書は、杖が認めた者にしか解読が出来ぬようにしてあるからな』

俺はようやく、そういうことだったのかと納得した。
ヴォルデモートがかつての自分と同じように、サラザールが杖に
記憶を封印してたことを知ってたかどうかまでは分からない。
だけど、俺にその魔道書を解読させるついでに、自分の所に引き込んで
犯罪の片棒かつがせようとしたと。

(――ん? ちょっと待てよ、そう考えると……俺ってただ偶然、
 巻き込まれただけなんじゃないのか?)

「……つまり、だ。俺はサラザール・スリザリンの本当の子孫じゃないけど、
 サラザールの魔力は持ってるってことなんだろ?」
『我が死した瞬間に、汝が生まれ落ちたと考えればよいか。我の推測にしか
 すぎぬが、崩壊と創生が同時に起こり、ありあまる生命の引力に
 我が魔力が引き寄せられたのだろう。マグルのお前が魔法を使えるのは、
 魂に宿る我が魔力が元になり、そして紅眼が証として現れた』
「うわー、ドンピシャじゃん……」

思わず頭を抱える俺。
サラザールはちょっとバツの悪そうな顔をした。

それにしても、と、俺はちらりとサラザールを見やった。
何だかイメージしてたより、サラザールは良い人っぽい気がする。
こんなことになるなんて、想像もしてなかったのもあるけど。
一息ついてから、俺はまた顔を上げた。

「俺がここに呼ばれたのか、俺が魔法を使えるわけは分かった。
 ……だけど、それがサラザールの記憶が杖に封印されたってのと、
 何の関係があるんだ?」
『っ』

(……おいおい……何で固まるんだ……? 俺、どこか変な
 質問したか?)

俺の問いかけに、ものの見事に硬直してしまったサラザール。
思わず俺はぽかんとしてしまう。
古典的だけど、顔の前で手をぶんぶんと振ってみる。
すると、これまたサラザールは古典的に気がついて慌てた。

『――ちが、いや、私がそうしたのではなく、これは勝手にゴドリックが!!』

あ、いきなり言葉遣いが堅苦しくなくなった。
慌てるサラザールの言葉は支離滅裂で、よく意味が分からない。
とりあえずサラザールの言うゴドリックっていうのは、名前と雰囲気から
創設者・ゴドリック・グリフィンドールなのは分かる。
だけど、何でそんなに慌ててるんだろう。

(ぷくくっ、サラザールが面白いとは思わなかった……)

そんな思いが俺の顔をニヤつかせてたのか、俺の顔を見やった
サラザールが取り繕うように何度か咳払いした。
そうして、また固い口調で話す。

『……つまり、ゴ――、いや、グリフィンドールが我にいつだったか
 “少しは他人に感心を持たないか” と言い出したのが、
 そもそもの始まりだ……。元より我は記憶のまま杖に宿り、
 姿を現す気などなかったのだが……汝の気質を見る限りでは、
 奴が何らかの干渉をしたのだろう』

別に言い直さなくていいのに、サラザールが憮然としそうだから、
俺は心の中だけで苦笑してみせた。
それにしても気質という言葉に、俺は首を傾げる。
ファンサイトでアンケートをやったら、サラザールに悪いがスリザリンでも
グリフィンドールでもなかった。
俺の寮はレイブンクローで、グリフィンドールだったのは妹。

「ふうん、なるほど……。まいっか、そんじゃ、これからよろしくな、
 サラザール! 手始めに、かたっ苦しいその口調を止めてくれるといいな。
 杖の記憶なんだから、どうせ俺が杖を持ってる限り、ずっと一緒にいるしか
 ないんだろ?」

にっこりと笑って、俺はあっけらかんとそう言ってやる。
ほとんど無表情だったサラザールの顔が崩れた。
驚きと困惑に彩られる表情は、俺の笑いのツボを押しまくった。

(あっはははは、驚いてる呆れてる! 珍しいもん見たぞ俺!)

『――お前は……気質というより、性格そのものがゴドリックに
 似ているようだな……』
「へえ、ほんとか?」

まあ、俺には気質ってのはよく分からないけど、本物のゴドリックを
知ってるサラザールが言うんだから、多分そうなんだろう。
それにしても、2人って仲悪いんじゃなかったっけか。
サラザールがマグル嫌いだったせいで。

そんな疑問が脳裏に上がった時、遠くからばたばたと数人の足音が
空洞の中に響いてきた。
しまった、と俺は舌打ちする。
サラザールの話に夢中で気づくの遅れたみたいだな。
俺の様子を見てサラザールもようやくこっちに向かってくる足音に
気がついたのか、空洞の道の方を振り返る。

すると、一瞬で姿を消した。

「はっ!?」
『いったん杖の中に戻っただけだ。大声を出すと見つかるぞ』

一瞬、俺を置いて逃げたのかと思った。
記憶なんだから、杖がここにある限り逃げらんないよな。
とはいえ、俺が息を潜めて大声出さなくったって、このままでもあいつらは
この空洞にすぐたどり着く。
だってここまで一本道だったし……。

杖を見てみると、確かにあの青い光が盛大に増してる。
その光を見た瞬間に俺の腕が――というか、杖が勝手に動いて鋭く
空を切った。
とたんに、青い光が破裂して俺の体を包んだ。
自由な腕で顔の前の光を遮る。

(駄目だ、すげぇ眩しくて目が開けられねぇっ……!!)

ぐんっ!!

何かに後ろへ引っ張られるような感じがしたけど、
目を硬く閉じてた俺にはどうなったのか分からなかった。
――と、思ったら。
唐突に瞼を貫いてた蒼い光の洪水と、後ろに引く力がなくなってぐらりと
空中に投げ出される感覚に体がよろけた。

「えうあーっ」

情けない声を出しながら、柔らかいものの上に盛大にコケる。
そのおかげで、とりあえず体には全然痛みがなかったけど。
ゆっくり目を開けてみると、倒れてた場所はベットの上だった。

一見シンプルそうに見えるんだけど、見上げてみれば贅沢で豪華な
天蓋付きのキングサイズのベッド。
ベッドの上でコケた体勢のまま、ぼんやり辺りを見回す。
広いには広いんだけど、酷く殺風景な部屋の中。

「……ん? あれ……?」
『お前は、いつまで寝転んでいるつもりだ?』

呆れたような顔のサラザールが、するりと杖から出てきた。
それを見て、俺は体を起こして座りなおす。

「あの洞窟から移動したのは分かったけど……ここ誰の部屋?」
『私の私室だ』





NEXT.

拍手[1回]

PR