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黒犬倉庫

版権・オリジナル・ CP 小説中心。よろずジャンルなブログ(倉庫)。二次創作や、オリジナルキャラクターが主軸となる作品が多め。受け付けない方は閲覧はご自重下さい。原作者・出版社等の関係はありません。

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蒼紅 9


声を追う蒼が見た警告の文字




パーティが終わりそうな頃合い。
それを見て、俺は大広間を抜け出してきた。

初めて外国……しかも本場のハロウィーンのお菓子とか食べたけど、
甘くてすっごく美味かった♪
トライフルとかジンジャーブレッドマンも良かったな。
甘いものが好きな俺としては、お菓子やデザート類はすっごく嬉しい。

こっちに来てからの食事は、もちろん全部イギリス料理だ。
イギリス料理は美味しくないっていうのは色々と聞いたことがあるけど、
しもべ妖精が持ってきてくれる料理は、普通に美味しかった。

厚切りのローストビーフやパリパリのソーセージ、カリカリのベーコンや
サクサクのミートパイにキーパ、マカロニ・アンド・チーズ、お供はパン。
飲み物はオレンジジュースや、さすが本場、たくさんの種類の紅茶。
おやつの時間にはサンドウィッチやスコーン。

嘘をつくわけじゃなく、本当に美味しいのは美味しい。
……だけど……こう文化の違う食事をずっと続けてくると……
さすがに和食が恋しくなってくるのは当たり前じゃないだろうか。
きらきら輝く白米は当たり前だけど、納豆とか豆腐とか、だしまき玉子、
味の染みた煮物、色んな具材の味噌汁、天ぷら、刺身だとか!
きっと俺がいなくなって、朝食の当番はぐちゃぐちゃになっただろう。
……しもべ妖精に頼んだら、和食作ってくれるかな。

ぼんやりそんなことを考えてると、声が聞こえた。

『……おい、アオイ? どこに向かっているんだ?』

まだ杖から出てこないままで、訝しそうに言うサラザール。
今日はずっと静かに杖の中で眠ったままなのかと思ってたんだけど、
どうやらただ黙ってただけらしい。

校長からちゃんと許可をもらったから、俺は皆と一緒の寮じゃなく、
あのままサラザールの部屋で過ごすことになってる。
だけど俺の足が歩いてる方向は、部屋とはまるっきり正反対。

俺が方向音痴じゃないってことを知ってるサラザールが分からないのは、
至極当然。
ちなみにかなり方向音痴なのは、妹なんだけど……。

「今日はハロウィーンだからね」
『どういうことだ……?』

答えになってないのは分かってるけど、俺はそれだけ言った。
まだ何か言おうとするサラザールの声の前に、ようやく俺が待ってた
“それ” が聞こえてきた。

≪ああ……血の臭いだ……懐かしい臭いがするぞ……!
 殺してやる……!!≫


地の底から沸き起こるような声に、首筋に冷汗が伝いそうになる。
それほど、その声は暗く堕ちた狂喜に満ちていた。
前に、一度だけ試して聞いた時とは全然比べ物にはならない。
耳にしたくないくらいの、冷たい気持ち悪さがある。

「……これが答えだよ。今のちゃんと聞こえてたよな、サラザール?
 とりあえず今日は追いかけるだけだから、杖の中にいていいぞ」

サラザールが何か言った気がするけど、俺は無視して走り出す。
階段の手すりを使って階段を軽く飛び降りながら、俺は真っ直ぐ声が
目指す場所へと向かう。
今度は声を追いかけるだけだから簡単だ。

……何せほぼ初めて校内を歩いたから、さっきまで少しだけ2階と
3階の間をうろついちゃってたからな……。

やがて場所が見えてきて、急がせてた足を止める。
俺はゆっくりと角を曲がった。

目に入るのはそこらじゅうが水浸しになってる廊下。
その上で立ち尽くしているくしゃくしゃの黒髪の男の子と、赤毛の男の子、
ふわふわな栗毛をした女の子の3人。
そして――石化したミセス・ノリス。
呆然と3人が見つめてる先には、鈍く光る赤い文字。


秘密の部屋は開かれたり 継承者の敵よ、気をつけよ


「――継承者の敵よ、気をつけよ!! 次は“穢れた血”の
 お前たちの番だぞ!!」


勝ち誇ったようなマルフォイの声に、フィルチが飛んできた。
そして石化したミセス・ノリスを見つけて、驚愕するフィルチの怒りと悲しみと
憎しみがごちゃまぜになった目が、ぐるりと周囲を見回した時に、
がつんと俺の目にぶつかった。

(……あ。)

「お前が殺したんだな! ミセス・ノリスを……お前が! 殺してやる!!」
「え!?」

(うっそ、マズイかもとは思ったけど、マジで!?俺じゃねぇ……っていうか
 フィルチ怖ぇーーーっ!!!

脇目もふらずにこっちに向かって突進してきたフィルチに、いきなり
胸ぐらを掴まれそうになって後退りした俺。
それで初めて3人……ってか全員は俺の存在に気づいた。

「アーガス、止めるのじゃ!」

もう少しで腕を掴まれる所で、校長たちがようやく来た。
俺はほっと息をついて、硬直したフィルチから数歩後ろに離れる。

(はあ、怖かった……)

フィルチに掴まってたら、俺危ないことになってたかもしれない。
ある意味では、ヴォルデモートの前でキレてタンカ切った時よりも、
危ないことになってたんじゃないかと思う。
それほどフィルチの目は怖かった。

「さあ、アーガスとタカハシ、そしてミスター・ポッターと
 ミスター・ウィーズリー、ミス・グレンジャーは、一緒に来るのじゃ」

あ、やべ……俺がいたせいでハリーたちがオマケになってるじゃんよ。
しかも3人ともちらちら俺を見てくるし。
でも、パーティの時に3人はいなかったんだから仕方ないか。
確かニックに呼ばれて、ゴーストのパーティに行ってたんだっけ?

俺たちは校長に連れられて、近くのロックハートの部屋に入って。
さっそく、校長が石化したミセス・ノリスを調べ始めた。

何か後ろで、ごちゃごちゃと言ってるロックハートがうるさい。
ぼんやりとそんなこと考えてるこんな俺とは違って、妹がいたらロックハートに
笑いを堪えるのに必死になると思うな。
……奴のファンのハーマイオニーには悪いけど。

タカハシ
「……あ、はい。何ですか?」

(あれ? もう調べ終わってたのか)

周りの会話を全然聞いてなかったから、返事がワンテンポ遅れる。
いつのまにかハリーたちの絶命日パーティの説明も終わっていたらしく、
初めてスネイプ先生が俺の名前を呼んだ。

タカハシは何故、あの場所にいたのかね?」
「ああ……迷ったんです」

何せ半分本当のことだから、俺はきっぱりとそう言ってのける。
スネイプ先生は俺の答えに多少不機嫌そうに肩眉をピクリと上げて、
じろりと俺を見下ろしてきた。
うわあ……ハリーの行動を上手く制限出来なかったからなのか、めちゃくちゃ
怖くなってるよ、スネイプ先生の顔が……。

「では、偶然あの場所に迷い込んだと……?」
「いいえ。最初は階段の辺りでうろうろと迷ってたんですけど、途中で、
 声が聞こえてきたので、とりあえずその後を追いかけてみたんです。
 そしたら、あの場所に」

これも半分本当。
嘘は言ってないけど正確な言葉も入れてない。
聞こえてきた声の正体――だとかね。

ちらりと校長の青の瞳が俺を見たけど、気づかないフリ。
俺にはホグワーツを知り尽くしているサラザールが一緒にいるんだから、
校内を歩くのが今日初めてでも、迷子にだけはなるはずがない。
だから、この場では校長だけが俺の嘘を見抜いてる。

まだ、他には気づかれるわけにはいかない。

(……まだ、ね)

「――アーガス、スプラウト先生のマンドレイクが充分に成長したら
 猫を再生させる薬を作らせよう。安心するのじゃ、そうすれば
 石化から戻れる」
「それでは、この私にお任せを! きちんとおつく――」
「ホグワーツの魔法薬学の教授は、この我輩のはずだが……?」

場違いに明るいロックハートが上げた声を、スネイプ先生のかーなり
冷たい声がばっさりと一刀両断する。
俺も、きょとんと首を傾げて言ってやった。

「俺も先生自ら、そのように聞いているんですが」





NEXT.

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