エピローグ
俺がいる所は暖かな部屋。
でも俺が使っているサラザールの部屋じゃなくて、どうしてだか、
グリフィンドールの談話室だった。
てんやわんやな大広間の片隅でハーマイオニーたちと話をしてると、
いきなり顔を険しくしてしまったハーマイオニーに強制連行……
もとい、案内された。
ハリーとロンも、何か知らないけど俺たちを追いかけてきて。
何故か、俺は一人用のソファに座らせられた。
ハーマイオニーを含む3人は、目の前のソファに座ってる。
まるで俺を詰問するかのような体勢だ。
(な、何なんでしょうか、この状況は?)
「アオイ」
「はっ、はい……?」
低い低いハーマイオニーの声が、何となく嫌な予感を告げる。
もちろん俺のその予感は当たっていた。
「少しは行動を反省しなさい! アオイは危なっかしすぎるわよ!
クィディッチの時もハリーを庇って、左手の骨抜けたって聞いたわよ?
見かけるたびによく人にぶつかってるし、階段から落ちそうになるし、
今回だってバジリスクの毒で、声が出なくなったっていうじゃないっ!!
本当にアオイって何を考えてるのよ!」
(うわあ……やっぱり!)
俺は初めてだよ、ハーマイオニーのお説教食らうのは。
ひええっと心の中で頭を抱えてみる。
でも、サラザールから呆れられたあとでお説教はきつい。
「あ、ああーいやーそのーでもーバジリスクの毒に関しては俺よりも、
どっちかって言ったらハリーの方が結構危なかっ……
ごめんなさい」
とりあえず無謀だとは思ったけど、おそるおそる言い訳をしようとしたら、
すぐにきっつい目線で黙らされた。
背筋がしゃきっと伸びてしまうほどに、ハーマイオニーのその剣幕は
すごかった。
ああ、親愛なる友人、ロン・ウィーズリー君。
俺は今、とても君を尊敬する。
「だいたいアオイは女の子なんだから、もう少し自分を大切にしなさい!!」
「アオイが女の子ーっ!?」
普通の人が聞いたら、めちゃくちゃ失礼な言葉をロンが叫ぶ。
ハーマイオニーがイライラとロンを睨みつけた。
「当たり前でしょう? 貴方ってば、どこを見てるの、ロン?」
「ど、ど、どこって……!!」
驚き慌てふためくロンに俺は同情する。
いや、俺って普段から男装してるし……それっぽく振る舞ってるし。
普通はロンの反応が正解なんだよ、ハーマイオニー。
……だいたい、俺はホグワーツに来る前の中学だって男子生徒として
通してきたんだからな。
家族を抜いて、俺の男装の事情を知ってる一部の親友や先輩、
教師以外には、ずっと男だって思われてたんだし……。
ロンがぱくぱくと口を開閉しながら、俺を見てハリーを見る。
だけどハリーは何のこともなく、さらっと言った。
「知ってたよ」
「「えぇぇええぇえぇええーっ!!?」」
「あら」
今度はロンだけじゃな、く俺も叫んだ。
「……前から何となく、そうなんじゃないかなあって思ってたんだよね、
アオイのこと。それに秘密の部屋で、後ろから抱きしめられたから」
(後ろから? ……ああ、あの時に分かったのか……)
言われてみれば確かに、リドルの最期の攻撃から守るためにハリーを
後ろから庇って、防御魔法を使ったもんな。
語弊があるとすれば、俺は抱きしめたつもりはなかったけど。
納得する俺を差し置いて、ハーマイオニーが立ち上がる。
何故か、その表情は強張ってた。
「だ、だ、だ、抱き……ですって!? っハリー!!宣戦布告を
させてもらうわ、貴方に私のアオイは絶対に渡さないわよ!!」
「何それ!?」
ハリーに向かって人差し指を突きつけるハーマイオニーの、何だかよく
分からない宣言に思わず声を上げた。
いつのまに俺はハーマイオニーのものになったんだろう。
しかしハリーは、にっこりと笑った。
何だろう、その笑顔、越前とか不二先輩に似てる。
「そう言われても困るよ、ハーマイオニー。だって僕はこれっぽっちも
アオイを君に譲ってあげる気はないからね」
「……はあっ!? ちょっ……ハリーも何を言って……」
「ね? アオイ」
「ね? じゃねぇ!! つーかいつのまに抱き締めてんだよ!?」
俺を後ろから抱き締めるハリー。
真正面からハリーを睨むハーマイオニー。
二人の剣幕に怯えるロン。
『……諦めた方がいいんじゃないのか』
どこか楽しそうなサラザールの声。
あまりの出来事に愕然と、呆然とした俺を完全に無視してハリーと
ハーマイオニーはヒートアップ。
暖かな談話室が、ものすごく暑く感じられてくるほどに。
俺……まだ帰れそうにないみたいだ、妹よ……。
END.