「ただーいまー」
「お帰り、愁ちゃん。セルティはさっき仕事に行ったよ」
「そっかー」
静雄さんたちとお店の前で別れて、ようやくマンションへ戻ってくると、
リビングでのんびりしていた新羅が出迎えてくれた。
セルティは仕事か……。
そういえば、シューターがいなかったような気がするかも。
あたしはちょっと考えてから、キッチンに行く。
二人ぶんの紅茶を用意して、新羅がいるソファへと座った。
「……ねえ、今ちょっといいかな、新羅? 少し気になることが
あるんだけど……」
「何だい? ああ、僕がセルティをどれほど愛しているかとか? そういえば
私とセルティが出逢った時のことを、愁ちゃんには詳しく話して
いなかったね。あれはそう、俺がまだ幼い頃だったよ――」
「ちょちょ、待って、それはまた今度聞くから!」
うっとりとした表情を浮かべてスラスラと話し出した神羅を、
あたしは慌てて止める。
もちろんセルティがいない今だったら、セルティが恥ずかしがって
止めるような話もじっくりと聞けるんだろうけどね。
それは別の機会にすることにして。
「ねえ、新羅。平和島静雄さんって知ってる?」
「知ってるも何も――。ああ……そういえば愁ちゃんは、今日は
池袋に行ってきたんだったね。あいつに会ったのかい?」
会ったもなにも……。
あたしはとりあえず遠まわしに訊いてみる。
「あのね、新羅……普通の人間って、片手とはいえ平和島さんに力一杯
頭を締め付けられたら、どうなっちゃうかな……?」
「死ぬだろうね」
新羅はさらりと答えた。
「それは考えなくても分かるよ。あいつが本気を出したら、コンクリートが
砕けるとかじゃすまないんだから」
「……ですよねー」
「ああ、愁ちゃん、もしかしてそんな場面を見ちゃったの? だけど静雄に
やられていた人って――」
きょとんとした新羅が、ふいに口を閉ざした。
徐々に呆然と目を見開いていく新羅。
その様子を見て、やっぱり察しが早いとしみじみ思う。
肩を落としながら、あたしはゆっくりと自分の頭を指差してみせた。
「死んでないあたしは、普通の人間じゃないってこと?」
ゆっくり進む、己の非常識