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黒犬倉庫

版権・オリジナル・ CP 小説中心。よろずジャンルなブログ(倉庫)。二次創作や、オリジナルキャラクターが主軸となる作品が多め。受け付けない方は閲覧はご自重下さい。原作者・出版社等の関係はありません。

番外 咲かせる花火師

 
 
 

「俺は、大きく咲かせてやるんだ」

指先を回す。
その上に、掌で覆いつくせるくらいの丸い玉が乗る。
だが、まるで玉は指に吸い付くようにバランスを崩さない。

「綺麗に咲かせんだ」

もう一度強調する。
落ちる様子を見せない玉から、少年はようやく目線を滑らせて、
だらしなく足を伸ばしながら隣に座る青年へと向けた。

「……ナニを?」

だぼだぼのTシャツの袖を肩までまくりあげた、快活そうな青年。
無表情ながらも瞳に疑問の色を強く宿している少年に、
青年はくくっと喉を鳴らして笑う。

「決まってんだろ。花だよ、花」

……花。
少年は少し眉をひそめて辺りを見やる。

どこまでも広がる、乾いた荒野。
目に映る範囲には草木は生えておらず、地面のひび割れから
芽生えるものなどひとつもない。
空を見上げてみても、いつもと同じ濃い青色だ。

あるものといえば。
少し離れた所に設置された、灰色のプレハブ。

『キャラクターボックス』と呼ばれている、少年たちの拠点だけ。
小さなプレハブは数十棟あり、均等に並べられている。

怪訝そうにしている少年の視線を辿り、青年は溜息をつく。
いじっていた玉を突きつけた。

「違うって!植物の花じゃなくて俺が言ってんのは、コーレ!!
 だっつーの!!」
「……ああ」

香ってくる独特の匂いが、玉の存在感を示す。

「お前、ほんっと天然だよなあ……ちゃんとソレ、扱えるように
 なってんのかあ?」

呆れたように指を差した先は、少年の腰。
サスペンダーに引っかかるようにして、吊られた黒い銃。

「って、愚問か」
「どうしてそうオモウの?」
「だってお前の方が、実力かなり上じゃん」
「そういうの、ボクはわからない」
「つーか 『マスター』 はどうやって 『ゲーム』 に出す『キャラクター』 を
 決めてんだろーな?さすがに俺も、お前より先に出るとは思って
 いなかったし……」

呟きながら、青年はプレハブ棟の奥に目を向ける。
そびえているのは、大きなしっかりとした鋼鉄の建物。

建物の色としては同じである。
しかし、それは少年たちが住んでいるすぐに壊れてしまいそうな
プレハブの造りとは違う。



一人しか入ることの出来ない建物の名前は 『マスターベース』 。



少年たちはそれに気がついた時にはすでに、この荒野で、
プレハブの中でずっと生活をしていた。

いつだったか、突然現れた男。
男は 『マスター』 と名乗るとこう言った。

―― 『ゲーム』 の 『キャラクター』 になり、敵側の 『ピース』 を倒せ。

数時間後に始まった争い。
それを見て、その意味を少年たちは知った。

『マスター』 は誰かとしている戦争を 『ゲーム』 と呼び、
己や向こう側の兵士をただの駒…… 『ピース』 と呼び。

少年たちはそれぞれの戦い方や格好に由来している通り名を
『マスター』 から与えられ、別格の 『キャラクター』 と呼ばれ、
『ピース』 とともに、この 『ゲーム』 に強制参加させられる。

そのために、武器を持たせられた。



「通り名、モラッタの?」
「火薬使ってっから 『花火師』 だってさ」
「だからサカセるっていったんだ」
「あと少し待てば、こいつで深紅の花火咲かせられんだ」

青年は頷きながら、とても嬉しそうに笑う。
そして玉を空にかざした。
その姿に少年は腰の銃に、そっと手を伸ばす。

いつか自分も通り名を与えられる。

「なあ」

声をかけつつも、青年は空を見上げたまま。
少年の方を見ない。

「この 『ゲーム』 って 『エンディング』 あんのかな」
「…………?」
「俺、何気に知ってんだ。数時間前の 『ゲーム』 に出てた『歌手』 が
 帰ってこねぇの。だから俺が 『花火師』 の通り名で参加するんだぜ」

まるで、独り言のように青年は言う。

「俺たちには、代わりがいるんだ。なら、どいつを倒しゃいいんだ?
 どいつが倒れればいいんだよ?……ずっと終わんねぇじゃん。
 この 『ゲーム』 に 『エンディング』あるのか?なら」



ビ―――――ッ……



まだ続いていた言葉を遮るように、後ろから抑揚のない
高いサイレンが叫ぶ。
とっくに聞きなれてしまった音は 『ゲーム』 が始まる合図。
2人はおもむろに立ち上がると、プレハブへと戻る。

少年はそこで立ち止まり、青年は片手をひらりと振ると、
プレハブを通り過ぎて 『ゲーム』 が行われている荒野へと
足を向けて歩いていった。
腰に火薬とライターが詰まった、ポーチをぶらさげて。





「マリオネット!」

少年は振り向く。
無表情のその顔には、両目の下と口の両端から、
細い線が顎まで描かれている。
サスペンダーの両肩の部分には、三本ずつとても細い糸が
くくり付けられていて、ゆらゆらと風に舞う。

手には黒く厳つい銃が一丁。

紅に濡れた剣を手に、にこにこと楽しげな笑みを浮かべて
少年に近づいてくるのは 『ピエロ』 だった。

「また 『エンディング』 を考えていたのかい?何度も言うけど、
 マリオネット?俺たちは 『マスター』 の動かす 『キャラクター』 だよ?」

知っていると少年が答える。
すると、『ピエロ』 は楽しそうに笑う。

「『マリオネット』 だから操られなきゃいけないだって?
 そんなことを言ってるのは君だけだけどね」

『ピエロ』 はそう言うと手を振って、その場を離れた。



操り人形のマリオネット。
操られなきゃいけない。
糸が切れたら、舞台から退場しなければ。



「……それが『エンディング』……?」



『花火師』 は帰ってこなかった。





END.

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