俺たちはそのまま倒れたゼルガディスを抱え、休憩用に作られた
近くの小屋に移動した。
一応俺もリカバリィぐらいは使えるが、ここは回復術に特化している
アメリアに任せるのがいいだろう。
というのも、どうやらヌンサには毒が仕込まれていたらしく、
ゼルガディスが気絶までしたのは傷口から毒が廻ったからのようだ。
危ない危ない……防ぎきれて良かった。
いやほんとーに……腹減ってなくて良かった……。
俺とガウリイお嬢ちゃんは備え付けのテーブルに移る。
時刻はすでに夜になり、窓辺からは月明かりが煌々と差していた。
「ねえリナ……、あの人どうするの?」
「どうするったって……とりあえず捕まえておくしかないだろ。
色々と訊きたいこともあるし」
ガウリイお嬢ちゃんの問いに、俺は軽くそう答えた。
ゼルガディスは誰かに命令を受ける立場だった、それは誰からなのか。
レゾが言っていた、魔王復活うんぬん~は本当なのか。
俺はだんだんややこしくなっていく事態に溜息をついてると、
ふいにアメリアが俺を呼ぶ。
「……あの……リナさん」
「ん?どうした?」
「怪我や毒はもう大丈夫なんですけど……息苦しいかと思って……その、
フードと口布を取ってみたら……」
歯切れの悪いアメリアに眉をひそめて、俺は席を立つ。
すると、ガウリイお嬢ちゃんも一緒に俺のあとをついてきた。
俺たちはベッドの方へ足を進め――目を見開いた。
そこに寝ているのは、ゼルガディスで間違いない。
しかしその体は見るからに、人間のものではなかった。
普通なら柔らかい皮膚だろう部分が、全て岩か何か、それに類する
硬質のもので覆われている。
露出している首や指先も同じような岩肌であることから判断して、
きっと全身がそうであることはまず間違いないだろう。
一瞬、魔法で造られたゴーレムだろうかとも思ったが、先ほどまでの
ゼルガディスの行動を思い返してすぐに否定する。
主に仕えるためだけに術で造り出されるゴーレムには、自らを動かす
“自我”というものがないからだ。
「この方……ゼルガディスさんって……
女性だったんですよ!!」
「そっちか!?」アメリアの叫びに俺は思わずコケた。
確かに、顔つきやマントを取った体つきからして、女だと分かる。
考えてみれば、岩にも等しい重そうな身体のゼルガディスを
アメリアが一人でも抱えられたくらいだったからな。
「だって、隠してたってことは見られたくなかったんでしょうし」
「いやまあ、別に悪気があって見たわけじゃないんだから……
仕方ないことだと思うが……」
「……起きたら謝ります」
そう言ってしゅんと落ち込むアメリア。
するとその目前でゼルガディスが眉をひそめ、静かに瞳を開けた。
最初は寝ぼけたようにぼんやりと瞬きしていたが、ゆっくりと俺たちの
存在を目線だけで確認すると重々しく溜息をつく。
そして囁くような声で呟いた。
「腕を試させてもらう――つもりだったのに、こっちの方が口ほどにも
なかったわけか……」
「あ」
身を起こそうとするゼルガディスに、慌ててアメリアが手を貸した。
一瞬だけ驚いたようにアメリアを見上げたゼルガディスだったが、
おそるおそるといったように手を借りながら上半身を起こす。
俺はそれを待ってから問いかけた。
「それで?こうなったからには事情の説明くらいはあっても
いいんじゃないか?」
「――分かってる。この状態では私も逃げたり出来ないさ……それに、
貴方たちも充分巻き込まれてる。知る権利くらいはあるだろう。
――さて、どこから話そうか……」
「まず、お前たちに命令してる奴のことからだ。結局のところ、
お前がラスボスじゃないんだろ?」
「そう……私はあいつの手駒にしかすぎない」
「――何者だ?そいつは」
ゼルガディスは少し顔をしかめて、ひょいっと肩をすくめた。
「貴方たちだって聴いたことぐらいはあるでしょう。そのへんの
街にいる子供だって知ってるから。――現代の五大賢者と呼ばれる、
“赤法師レゾ”」
「レゾ――!」ガウリイお嬢ちゃんとアメリアが言葉をなくす。
そう考えれば結構シンプルな構図だと気づきながらも、俺はガリガリと
頭をかいた。
「レゾ、ね……あいつは本物なのか?」
「やはり接触していたのか……正真正銘、ご当人よ。――世間様では
君子扱いされているけれど、それがあいつの仮面で、裏はまったく違う。
昔はそうじゃなかったっていう話も聞くけど、どうだか……」
「『まったく――』って言われても、俺たちには分からないさ。そんな顔
見てないからな」
でしょうね、とゼルガディスは苦笑した。
NEXT.